内容説明
早春の美しい朝、画家になることを決意したその日から、いくのの新しい人生が始まった。理想の生活をひたむきに追い求め、辿りついたあまりにも無垢で素朴な生(北原武夫『聖家族』)。酒場の匂い、群衆のざわめき…、故郷を捨て、アメリカでの人生を選んだ男の目に鮮やかに浮かんだ景色とは(ジョージ・ムーア『懐郷』)。結婚生活のほとんどを闘病に費やした妻と、彼女の死を看取った「私」。諦念、しかし希望を予兆させる強靭な魂の記録(藤枝静男『悲しいだけ』)。人生を生き抜こうとする者たちの強さが圧倒的な三篇。
著者等紹介
北原武夫[キタハラタケオ]
1907‐1973。小田原市生まれ、本名健男。慶應義塾大学在学中より、翻訳、文芸評論などを発表、都新聞入社後も創作活動を続ける。1936年、宇野千代と共に日本初のファッション誌「スタイル」を創刊、編集と経営に奔走した。38年発表の『妻』が芥川賞候補となる
ムーア,ジョージ[ムーア,ジョージ][Moore,George]
1852‐1933。アイルランドのメイヨー州に生まれる。画家をめざし、青年時代をパリで過ごした後、ロンドンで執筆活動に入る。自伝的小説『一青年の告白』や、社会の貧困を描いた『エスター・ウォーターズ』で文名を高める。外国作品の普及や、母国の文芸復興運動にも尽力した
藤枝静男[フジエダシズオ]
1908‐1993。静岡県生まれの作家、眼科医。本名勝見次郎。旧制八高時代の友人・平野謙と本多秋五に勧められ初の短篇『路』を執筆、結核を病む妻を描いた。代表作に『空気頭』(芸術選奨文部大臣賞)、『欣求浄土』、『愛国者たち』(平林たい子賞)、『田紳有楽』(谷崎潤一郎賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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