内容説明
本書では、いかに人間が自由自在に世界を“カット&ペースト”しているか、また自由自在とはいいながら、背後にどれほどしっかりとした規則性があるかということを、人間の最も身近な身体から身の回りの空間、そしてその空間に位置するモノの切り分け方にしぼって、検証した。
目次
1 ことばが空間を切る(「右」も「左」もない言語;テネハパ族の「左」「右」;空間はこうして切り分ける ほか)
2 ことばが身体を切る(上唇に髭が生える!?;形にこだわるツェルタル語;レモンの「鼻」はどこ? ほか)
3 ことばがモノを切る(「本」と「水」との違いは?;モノの分類基準;「アメリカ人一匹。」 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
白義
21
言語によって人間の認識は異なる、という言語相対論は最近下火だけど、改めて世界中の言語を調べて実験するとそうでもないようですよ、ということを豊富な実例で教えてくれる素晴らしい入門書。右と左という概念が存在しない言語がある。身体イメージの分け方も文化によって異なり、トロブリアンド諸島では心のある場所は胸や頭ではなくのどにあると考える。当然そこではなんらかの事情で言語を話せない人は人間扱いされない。さらに、そうした方向や身体イメージの言語による違いは、実際に方向感覚といった具体的な能力にも関わることがあるという2018/04/06
びっぐすとん
19
図書館本。専門向けなのか教科書的だが興味深い。かつて読んだ少数民族の本で「左右」を表す語がなく「上側下側」「東西南北」で表現する言語があることは知っていたが、これらの言語では相対的ではなく絶対的な空間認知によって物を見ているという。自分の知っている場所なら可能だろうが、知らない土地、地下などではどうするんだろう。一生自分のムラから出ない暮らしならそれでも事足りるのか。現地語と英語のバイリンガルが現地語では東西南北を使いながら英語では左右という語を使うことも不思議。何回か読まないと頭に入らない。言葉は深い。2021/05/31
にしがき
16
👍👍👍 「言語人類学への招待」という副題の通り、世界のさまざまな言語を人類学的に捉えた本。おもしろい。/空間を認識するときに相対的な右左ではなく、絶対的な東西南北を使う言語や、「着る」「履く」「かぶる」等を分ける日本語に対する英語のwear 一択。可算名詞、物質名詞の区別や性別の区別 など。言語はその話者の認識と結びついていて、更にはその文化にも繋がっている。/「…人々が『現実』と捉えている事象は人類普遍の絶対的なものではなく、言語構造とその機能の相互作用によって組み立てられる解釈にすぎない…」2022/07/29
ぽけっとももんが
8
確か「ピダハン」も左右ではなく川の上流下流で表していた。不思議だと思ったけれども、どうやらそれはピダハンに限ったことではない。左右がなくてどうするのか。東西南北や、地形の傾斜から上下で表す(そういえば京都は上ル下ルだなぁ)。右左の概念が人間全体で普遍ではないのだと知るだけでわくわくする。言語人類学とはおもしろくて難解で不思議な学問だ。2022/05/27
kenitirokikuti
8
図書館にて。1998年刊行。近年得られた認知科学の知見を、ドイツのマックス・プランク心理言語学研究所によふフィールドワークデータを比較したもの。カントは空間的な方位を論じる際に右手と左手の区別を取り上げるが、はたして、お手手の右左と「突き当たりの信号で右に曲がってしばらく行くと左手の方向に××がある」という指示は同じなのか? 相対的な左右を持たない言葉もあるし、絶対的な東西南北をよく使う言葉もあるし、文化的な要素と言語的な要素のどちらが優位なのか、ヒトの身体に由来する位置や方向の把握はかなり共通、など。難2018/11/19