内容説明
民族の言語が消滅することを憂い、その詩情を後世に残さんがために己の創作を放棄し、童謡・民謡の採集と翻訳に生涯をかけた金素雲。そして、金素雲を再訳する金時鐘。これらいわば二重の意味で出自を詐称する行為に通底する「翻訳者の使命」を、西脇順三郎や吉増剛造などの広義の翻訳=創作実践とつなげ、文学の重要な契機である他者性の問題に鋭く切りこむ斬新な翻訳論。
目次
ドゥルシネーア白
西脇順三郎と完全言語の夢
金素雲の朝鮮民謡翻訳
金時鐘による金素雲『朝鮮詩集』再訳
吉増剛造―発語と彷徨
吉増剛造と雜神
著者等紹介
四方田犬彦[ヨモタイヌヒコ]
1953年生。東京大学で宗教学を、同大学院で比較文化を学ぶ。韓国の建国大学校、中央大学校、テルアヴィヴ大学などで客員教師を勤める。現在は明治学院大学教授として映画史を講じる。映画と文学を中心に、音楽、漫画、料理、都市論と多様な分野で批評活動を行なう。『モロッコ流謫』(伊藤整文学賞)、『映画史への招待』(サントリー学芸賞)、『ソウルの風景』(日本エッセイストクラブ賞)など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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霧
2
『ドン・キホーテ』の多言語的な背景の分析、天才金素雲による朝鮮民謡の日本語翻訳という行為の意味(また金時鐘との比較)、そして吉増剛造のハングルの接近について。ポスト植民地主義を通過し、また異文化経験値の高い翻訳論が読みたかった。2016/02/22
あだこ
2
衒学趣味と博識のきわどいラインを通るものの、それでも透徹した考察が心地よい2009/05/08
角
0
翻訳は、原著をうまく訳しているかどうか、という視点から語られがちだが、これは「人は何故翻訳するのか」という視点から論じていて斬新。残念なのは、「翻訳者」という問題の提示と、それについて著者が知っている2、3の事柄を軽くまとめてみた、というところでとどまっているふうに見えるところ。もう少し踏み込んで欲しかった気も。2010/07/17
野原燐
0
ドンキホーテはイスラム教徒が書いたという話が興味深かった。2008/05/20