内容説明
好色で、酒好きで、暴力癖のある作家・須賀庸一。業界での評判はすこぶる悪いが、それでも依頼が絶えなかったのは、その作品がすべて“私小説”だと宣言されていたからだ。他人の人生をのぞき見する興奮とゴシップ誌的な話題も手伝い、小説は純文学と呼ばれる分野で異例の売れ行きを示していた…。ついには、最後の文士と呼ばれるまでになった庸一、しかしその執筆活動には驚くべき秘密が隠されていた―。真実と虚構の境界はどこに?期待の新鋭が贈る問題長編!
著者等紹介
岩井圭也[イワイケイヤ]
1987年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。2018年『永遠についての証明』で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞し、デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
285
読メの評判が良いので読みました。岩井 圭也、初読です。地味なテーマながら予想外の展開で一気読みしました。覆面作家には色んな事情があるのでしょうか?今年のBEST20候補。今後楽しみな作家です。 https://www.shodensha.co.jp/bunshin/2020/07/12
いつでも母さん
188
「何が虚構で、何が現実かなんて、実はどうでもいいのかもしれませんよ」須賀庸一という男の人生、を兄弟・親子・家族・・掴めそうで掴めない関係の中から感じた。岩井さん3作目にして脱帽。何故か泥池に咲く蓮の花が浮かんだ。その花はダニーの娘・明日美かー最後まで読まされました。こんな男は嫌いなのに目が離せない。放心状態ですが、お薦めです。2020/04/11
utinopoti27
184
酒乱で女好きで乱暴者で、「最後の無頼派」と呼ばれる作家・須賀庸一。その破滅的な人生をなぞるかのような私小説で人気を博す彼には、ある秘密があった。それは、彼は弟が描くシナリオのとおり現実を生きる「アバター」だということ。そんな庸一がある日弟から渡されたのは、妻を毒殺する作品原稿だった・・。現実と虚構を行き来するマトリョーシカのごとき多層構造に読み手は翻弄される。そしてその境界線は次第に曖昧になってゆき、ついには両者を区別することすら意味のないものに思えてくる。究極のカオス、無双の才能。恐るべし、岩井圭也。2020/10/31
hiace9000
173
岩井さん6冊目、現時点で岩井作品圧倒的ベストです! 東野さんの『白夜行』『幻夜』、また染井さんの『正体』、それらと似た空気感を纏うノワール独特の黒く暗い切迫感。読み手を暗澹たる絶望感から逃れさせない胸拉ぐ読み心地。"小説"という媒体自体の奏でうる面白さを、唸る筆致で幾重にも仕掛ける巧みさに、読む手止まらずでした。作中作中作…⁉︎という三重四重の構造にも迷うことなく没入でき、真実、現実、虚構の境界が瓦解する動揺と快感を読み手は味わえるはず。映画『大脱走』、虹の骨、章名、書名、装画ーすべて納得、見事なのです。2023/12/29
よつば🍀
134
途轍もなく趣味が悪く陰鬱な内容に嫌気が差しながらも、この物語の結末が気になり読み続けた。自伝や私小説は先にその人の歩んだ人生や経験ありきで描かれるが本作で描かれる私小説はその逆を行く。小説で書いた内容をなぞる様に、酒好きで暴力癖のある男を演じる須賀庸一。その裏には兄弟間の秘密が隠されている。兄弟と言えど別々の人間、何故そこまで?と理解が追いつかないでいると終盤で衝撃の事実に慄く。その瞬間、人間の多面性がもたらした物に一瞬納得をするものの、それはすぐ裏切られラスト1行で再び驚愕させられる。余韻が凄まじい 。2020/04/25