内容説明
「本当の私」を知りたい、自分を変えたい、高めたい…なぜ多くの人が自己啓発書を買い求めるのか?根底にある心性を明らかにする。
目次
第1章 「自己」の文化社会学に向けて
第2章 自己啓発書ベストセラーの戦後史
第3章 「就職用自己分析マニュアル」が求める自己とその社会的機能
第4章 女性のライフスタイル言説と自己―ライフスタイル誌『an・an』の分析から
第5章 ビジネス誌が啓発する能力と自己―ビジネス能力特集の分析から
終章 自己啓発メディアが創り出す「自己の体制」
著者等紹介
牧野智和[マキノトモカズ]
1980年東京都生まれ。2009年早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(教育学)。現在、中央大学・学習院女子大学ほか非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
テツ
19
いわゆる自己啓発本もそれをありがたがる方々も好きではないけれど、何故そうしたものがある程度持て囃されるようになったのかということを社会学的な視点から解説してくれるこちらは面白かった。自己というモノが自分の意思で改善されるのだということと、どうやら自己というシロモノにも正解と不正解の形があるらしいという社会全体の共通認識が、自己啓発という導きのスタイルを生み出した。しかし自己啓発本をいくら読み漁ろうが理想の自己(おそらく社会的なステータスの占める割合がかなり大きい)に必ずしも到達できる訳ではないということ。2022/09/06
うぉ
15
引用・出展が記された学術的なスタイルで書かれている。自己分析という手法に疑問を持ち、それが自分だけの感覚ではないことを確認するために手に取ったので、失礼だと分かっていたが各章の結論以外は斜め読みした。自己分析ゲームは確かに楽しいし、ゲームに陶酔するのもよいが、どこかのめり込めない、そんな違和感を的確に言い当ててくれた一冊。2019/05/17
きいち
13
自分の内面が鍛えられる対象になる「自己のテクノロジー化」と、自己そのものを問わないで済ませる「再帰性のうちどまり」という自己啓発メディアの機能を丁寧に描き出す良書。「自己を鍛えるというゲームから降りることもできる」という視点にはあらためてうなずくのだが、そこで思い起こすのは、「ヒカルの碁」で苦しむ伊角が楊海から“自己コントロールは身につけられるスキルだ”と言われて一気に前に進めたあのシーン。僕は、まずは「誰もがゲームに参加することができる」という点を「希望格差」系の文脈とつなげて考えていきたいと思った。2012/07/09
浪
12
ネットの発達により個人の生き方が相対的に可視化されたことで自らの行為の自明性が揺らぐようになった。それにより自分はどうなるべきかという問い直しおよび自己反省を行い、自己を常に再構成しながら人々は生活しなければならなくなった。つまり生き方の選択肢が増えたことで自由という名の刑が昔よりも重くなったということだ。自己啓発メディアは終わりのない自己再構成に目標を設定し、自分探しの答えを提供してくれる。答えを与えられたことで不安は解消されるだろう。だがその平穏は目標自体に対する疑いを持つまでの一時的なものだ。2019/06/23
チェリ
11
自己啓発という行為・文化そのものの歴史を分析した大作。世界的な自己啓発本からananまでを射程に捉え、巧みな文章力でまとめあげている。大局的な歴史感を捉える重要性を改めて感じられる内容であり、場当たり的に自己啓発本を読み漁ったのでは身につかない視座を得ることができる。自己啓発で何をするか、何を目指すかという根本論ですら時代と共に変わる。自己啓発本ってこうだよね、という決めつけは酷く安易なものだったのかもしれない。それにしても良くまとめたな・・・という印象が結局一番強かったが。2022/09/27