目次
雲のうへに春暮れぬとは
岩田川谷の雲間に
冬くれば淋しさとしも
見るままに山風荒く
岩にむす苔踏みならす
駒並めて打出の浜を
万代と御裳濯河の
思ひつつ経にける年の
里は荒れぬ尾上の宮の
今日だにも庭を盛りと〔ほか〕
著者等紹介
吉野朋美[ヨシノトモミ]
1970年東京都生。聖心女子大学卒業、東京大学大学院修了、博士(文学)。現在、中央大学文学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
351
後鳥羽院の歌37首と解説、および簡略な評伝を掲載する。院の歌をまとめて読むと、壮観というよりは歌の薫りが馥郁と漂うといった風趣である。数ある歌の中から精選されているとはいえ、いずれも名歌揃い。時代様式からは新古今なのだが、定家の華麗、式子内親王の妖艶とはまた違って古雅な趣きの中にも煌めきを見せる。例えば「岩田川…」の歌の末尾の「声もほのかに」。「駒並めて…」の歌の「朝日にさわぐ」。けっして特殊な形容語ではないのだが、一首の歌の中でひときわ輝きつつ、歌に生命を与えているではないか。2022/05/09
新地学@児童書病発動中
101
『新古今和歌集』を編纂した後鳥羽院の生涯を紹介しながら、院の詠んだ37首を詳細に解説。実に興味深い生き方をした人だと思う。政治家でありながら歌が好きで、承久の乱を起こし、隠岐に流されその地で没した。「ほのぼのと春こそ空に来にけらし天の香具山霞たなびく」のような大らかで伸びやかな帝王ぶりの感じる歌も素晴らしいが、隠岐に流されてからの心の悲しみを凝視して詠んだような歌にも惹かれるものがある。多彩な作風で、女性に視点から詠んだ歌もある。院にとって歌は、他人と心を通い合わせる大切な手段だったのではないだろうか。→2017/10/26
kaizen@名古屋de朝活読書会
64
#後鳥羽院 #和歌 雲のうへに春暮れぬとはなけれども馴れにし花の陰ぞ立ち憂き #返歌 空高く秋になり馴れ親しんだ柿の木なき実も見当たらず 源家長日記 2016/02/01
しゅてふぁん
54
さすが‘帝王ぶり’の詠み手、大胆で壮大で上から目線!新古今集の和歌はとにかく技巧的でこれまでの集大成といったイメージ。そして本歌取りが多くてびっくりした。読んだことある?と感じる歌が本当に多い。それもそのはず、意図的にやっていたらしい。隠岐に配流された後も新古今集の精撰に励んだほどに和歌に情熱を傾けた院の「祝五首」は流石の出来栄え。後鳥羽院の歌は歌合や歌会、公的な和歌の催しで詠まれたもので、生活の中で詠まれたものはほとんど残されていないそう。後鳥羽院が隠岐で詠んだ「遠島百首」を読んでみたい。2020/12/31
かふ
23
一応塚本邦雄経由で読んでみたが天皇というブランドなのかなとも思う。プロデュース力は凄いというのも天皇という力だしなあ、と思うのであった。まあ定家の方が面白かったというのもあるので、後鳥羽院はそれからでいいかな、と。たぶん、定家という巨匠のライバル的存在では面白いのかなとは思う。和歌自体の面白さはよくわからなかったというのが正直なところ。『新古今集』の編集者としての印象。池澤夏樹みたいな存在か。2023/05/15