出版社内容情報
ある日、右足が腫れて水があふれ出た。夜な夜なそれを飲みにくるのは誰?──沖縄を舞台に過去と現在が交錯する、奇想天外な物語
内容説明
ある日、右足が腫れて水があふれ出た。夜な夜なそれを飲みにくるのは誰か?沖縄を舞台に過去と現在が交錯する、奇想天外な物語!芥川賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おいしゃん
45
【芥川賞作品】沖縄を舞台にした三編。沖縄の人による沖縄の人のための、というくらい濃い。いきなり足が太くなり、そこからとめどなく吹き出す水を、夜な夜な兵士姿の亡霊たちが飲みに来るなど、ホラーかギャグのようなストーリーだが、そうならないのが神話の国ならでは。2018/01/24
長谷川透
23
日本人の沖縄文学の発見は、西洋人のラテン・アメリカ文学の発見に近いものがあるように思う。収録されている小説2篇は共に沖縄戦の記憶をテーマにしているが、戦争の惨禍よりも本土から離れた沖縄という土地の土着性が極めて強い。時を経ても残るこの島の風土の普遍性が、次第に薄れて行く惨禍の記憶と現代を生きる「しまんちゅ」とを織り交ぜるように展開する物語は見事であり、戦後数十年を経ても交錯する過去と現在の<声>の輻輳は、強く読者の心を打つ。目取真俊は決して有名な作家ではないが、彼の文学は世界に発信すべき文学だと僕は思う。2012/11/21
川越読書旅団
22
第117回芥川賞受賞作。徳正(主人公)の足先からしたたる水滴を夜な夜な求める先の大戦の戦没者たち。ボロボロの軍服をまとい、それぞれに足を失い、顔面を黒く腫らし、ウジにまみれ、それでいて皆礼儀正しく潤いを得る。生き残った事への罪悪感が見せた幻覚か、そてとも。不条理文学を想起させる、感覚に訴える良作。2020/06/11
ひなきち
20
表題作「水滴」と「風音」、どちらともマジックリアリズムを感じる。土地(沖縄)に根付いた神秘体験が戦争経験と共に語られ、深い哀しみが伝わってくる。戦争は深い傷跡を残すだけで、百害あって一利なし、と改めて感じた。久しぶりに純粋な「純文学」に触れることができた。2017/04/15
スミス市松
15
「水滴」と「風音」、双方の作品に共通する主題が〈生き残ってしまった者の罪悪感〉である。おそらくは「戦争を経験しなかった自分がいかに当時の記憶を物語るか」という自意識が著者の内で働いており、彼はこのサバイバーズ・ギルトの感覚を研ぎ澄ませ、シャーマンのように亡き人々の〈声〉を想像/創造し見事に小説として昇華している。裁かれえぬがゆえに心の奥底に封じてしまった哀しき罪を、沖縄の魂の言葉で語りあげ、赦し、そして明日を生き延びるための記憶として甦らせる。風音はいまもなお響き渡っている。彼らの哀しみを忘れぬために。2017/01/21