内容説明
ベネチアのサンマルコ広場で演奏するギタリストが垣間見た、アメリカの大物シンガーとその妻の絆とは―ほろにがい出会いと別れを描いた「老歌手」をはじめ、うだつがあがらないサックス奏者が一流ホテルの特別階でセレブリティと過ごした数夜を回想する「夜想曲」など、音楽をテーマにした五篇を収録。人生の夕暮れに直面して心揺らす人々の姿を、切なくユーモラスに描きだしたブッカー賞作家初の短篇集。
著者等紹介
イシグロ,カズオ[イシグロ,カズオ][Ishiguro,Kazuo]
1954年11月8日長崎生まれ。1960年、五歳のときイギリスに渡り、以降、日本とイギリスのふたつの文化を背景に育つ。その後英国籍を取得した。ケント大学で英文学を、イースト・アングリア大学大学院で創作を学ぶ。一時はミュージシャンを目指していたが、やがてソーシャルワーカーとして働きながら執筆活動を開始。1982年の長篇デビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年発表の『浮世の画家』でウィットブレッド賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
375
【原書】過去に読んだ数作品の背景やプロットが少々わたしには壮大すぎて、これも身構えて読み始めたのだけど。短編集なのに大きく(いい意味で)裏切られて。音楽を軸として、移りゆく時間、それに伴い移りゆく人間関係、求めたけれどかなわなかった夢・・・しっとりとした静寂な文章の中で、ときにユーモアを交えて描き、沈みゆく夕日のように物語を終える。最高に好きな作品に出会えた。2018/01/16
ヴェネツィア
289
カズオ・イシグロ初の短編集。5篇からなるが、そのいずれもが音楽と男女の機微を軽やかに描き出す。ただし、長編に比べるといくぶん軽すぎる印象も否めない。『日の名残り』や、『わたしを離さないで』に見られたような、モノローグによる切々たる語りが紡ぎだすしみじみとした感動はここにはない。少なくても現在までのところ、イシグロは長編小説にこそ、その真価が発揮されるのだろう。もっとも、これはこれでイシグロの軽やかさといった別の側面を味わえるのであり、捨て難いことも確かだ。2012/03/07
HIRO1970
192
⭐️⭐️⭐️⭐️前から気になっていたカズオ・イシグロさん。図書館に翻訳本があったので初めて手にとってみました。著者には珍しい短編集との事。(本来は4〜5年に一作長編を書いてその後2年間も世界中で販促活動=インタビュー。)先ず感じたのは全体に流れるノスタルジー感と題名であるノクターン:夜想曲集にからめての音楽に関する幅広く深い知識、そして世界各国の話題の引き出しの多さと知識見識。原文は多分趣きが違うのでしょうが、落ち着いて淡々とした雰囲気が強く躍動感が足りない感じは人生の夕暮れ時を表しているのでしょうか?2016/05/21
れみ
168
音楽と夕暮れがテーマの短編集。「老歌手」こういう場面に立ち会ってしまった人の気まずい感じ。「降っても晴れても」で学生時代のいい時間とずっと同じではいられない。夫婦も主人公もどこかいびつ。「モールバンヒルズ」姉と弟が互いに相手をそれぞれの思惑であてにしてる感じがイラッとする。最後はゾーニャをちょっと好きになってた。「夜想曲」びっくりな展開だけどわりと好き。又吉さんの「火花」のことを思い出した。「チェリスト」この5つのなかではいちばん読みやすかった。だけど、こういう形の“大家”って凡人には理解が難しいな…。2018/01/05
ケイ
167
男と女と音楽。短編五つ。まるでレイモンド・カーヴァーか村上春樹の作品みたいじゃない? 音楽の魔法が男と女を結びつける。正確には二人足すもう一人。この一人が目撃者。魔法の効く間は、二人はとても近くにいる。別れる前の夫婦も、ずっと音楽を介した友人だったはずの二人も、演奏を旅まわりでする夫婦も、包帯を被ったスターとスターを目指す男も、そしてチェロ奏者も。音楽は、結びつけても、別れを遠のけはしないのね。『老歌手』ヴェネツィアの街でカンツォーネより響く悲しい歌声と、『降っても晴れても』の高揚感がとても好き。2019/06/18