出版社内容情報
メディアの話題をさらったベストセラー、待望の文庫化! 残酷な運命に翻弄される若者たちの一生を感動的に描き、世界中で絶賛された日系英国人作家の新たなる傑作。解説:柴田元幸
内容説明
優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度…。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく―全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー賞作家の新たなる代表作。
著者等紹介
イシグロ,カズオ[イシグロ,カズオ]
1954年11月8日長崎生まれ。1960年、五歳のとき、海洋学者の父親の仕事の関係でイギリスに渡り、以降、日本とイギリスのふたつの文化を背景に育つ。その後英国籍を取得した。ケント大学で英文学を、イースト・アングリア大学大学院で創作を学ぶ。一時はミュージシャンを目指していたが、やがてソーシャルワーカーとして働きながら執筆活動を開始。1982年の長篇デビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年発表の『浮世の画家』でウィットブレッド賞を受賞した。1989年発表の第三長篇『日の名残り』では、イギリス文学の最高峰ブッカー賞に輝いている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
1546
小説を読むよりも前に映画を見てしまったのだけど、映画は原作にかなり忠実で、しかも原作の持つ趣もよく伝えていたと思う。ただし、語り手であり、主人公でもあるキャスをはじめとした登場人物たちの心の表現の微細さは小説ならではである。生きることの意味を問いかける本書のテーマは、この特異な構想の中でみごとに描き出されているといえるだろう。ヘールシャムからノーフォークにいたるまで、その情景は常に冬枯れたかのような光景であり、一人称体で淡々とした語りの手法も成功しているだろう。2012/02/18
starbro
1326
読友さんのオススメで読みました。忘れられた巨人に次いでカズオ・イシグロ二冊目です。今回はミステリ調でしっくり来ました。読み進める上で内容が明らかになりますが、良質なホラーのように正体を中々現しません。臓器移植、選民思想等、色々考えさせられました。代表作だけあり骨太の素晴らしい作品だと思います。2015/08/08
抹茶モナカ
1233
物凄く抑制の効いた文章で、奇妙な物語を描きつくしていて、見事。文体が印象に残ったのは、翻訳者の努力もあるだろうか。奇妙な物語で、三角関係の恋愛小説という側面もある。ミステリー小説の要素もあるけど、それはそんなに重要ではない。2014/05/11
パトラッシュ
976
キャシーたちの生きざまについて、多くの読者が疑問に思っているだろう。なぜ自分たちが生体臓器工場であり、早死にする運命を甘受しているのか。なぜアメリカの黒人奴隷や、ナチスの強制収容所に閉じ込められたユダヤ人のように自由を求めて立ち上がらないのかと。『猿の惑星』など似たテーマのハリウッド映画は何本もあるが、すべて支配する者とされる者の対立と抗争を描いてきたのに。もしイシグロが、実はオリジナルの人間に忠実になるよう睡眠教育でも施されているとの裏設定をしているのなら、一瞬で悪夢の如きホラー小説に変貌してしまうが。
遥かなる想い
857
イギリスの美しい田園地方ヘールシャムの私立学校で子ども時代を過ごした3人、キャシー(キャリー・マリガン)、ルース(キーラ・ナイトレイ)、トミー(アンドリュー・ガーフィールド)。だが、この私立学校は臓器提供者の学校であり、美しい田園描写とは裏腹にそこで育つ子供たちの不安・怯えのようなものが巧みに描かれていく。著者はこの本で何を描こうとしたのだろうか…2011/07/16