出版社内容情報
"“意識の流れ""小説、漱石の『坑夫』を、小説というより、むしろ意識によって形成される〈主体〉と〈欲望〉をめぐる「写生文」として読む試み。読むことの出来事性が鮮やかに甦る。"
内容説明
近代日本の散文の可能性を切り拓く。夏目漱石『坑夫』を、写生文として読むことによって、無意識の自明性の中に葬られてしまった読むことの出来事性が鮮やかに甦る。
目次
1 読むことの時空
2 「主体」の生成と他者
3 欲望の発生と自己
4 意識の連続と転換
5 可能性としての「写生文」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
寛生
46
【図書館】漱石の「坑夫」を主軸に小森が読んでいく。最後に「『坑夫』というテクストと、出会い頭の事故をおこしてしまったのです。」(274)と本人が言う。読者であるこちらは、その出会い頭の事故を目の前にして、あまりのショックにどんな言葉もでない。「読むこと」をこれ程までに徹底的に愛しつくす人は、世界にもそんなにいないだろう。濃厚。だが、こちらの感覚としては、小森の読解と彼のことばが僕を蘇生させる。「僕は生きていたんだ、僕は人間だったんだ」という感覚を持たさせられる。ことばが息をしている。その鼓動が聞こえる。2014/09/05
タカヒロ
8
今まで自分は文章の何を読んでいたのだろうと思わされる一冊。夏目漱石の『坑夫』の言葉に即して、そこに表れた主体、意識、欲望、自己のありようをそれこそ「微分化」して論じていく。それを通じて、『坑夫』が正岡子規の目指した「写生文」の実践たることが明らかになる。一字一句を揺るがせにせず、そこに立ち現れる表現者なり人物なりの意識の動きを抉り出す小森氏の論述と、「その一文字」「その一言」に立ち止まれる小森氏の言葉への感度に対して、烏滸がましいながらある種の「嫉妬」すら覚える。『坑夫』はやはりもっと評価されていい。2022/12/26
あなた
7
テクスト分析の最たる規範であり、理想的な教科書、と同時にここが文学研究が行き着いた「読解」の基準点でもある。でも、こうしてみるとテクスト分析って論理じゃなくて話術なのだ。本書は、「怪しさ」をかかえもつ。だからこそ、小森陽一とは研究者というよりもアジテーターだったと思うんだ。「いってることはよくわかんなかったが、解説がべらぼうにうまい」とはある教授の発言。かみくだいた翻訳語りがうまかった。ともかくも、近代文学研究に小森がトルネードを巻き起こしていったのはまちがいない2009/08/12
7ember
1
著者自身が巻末で記しているように、文学研究者夏目金之助の文芸理論(意識論)に基づいて小説家夏目漱石の小説『坑夫』を精読していく内容。中盤にシェラールの「欲望の三角形」を用いて漱石のいくつかの作品を分析している部分があって、ここは短くまとまっているので比較的参考にしやすい。それ以外の部分は文章中の語り手の意識のあり方について地道に注釈を加えていく作業が続くが、講義録の体裁をとっているので比較的楽に読める。2014/06/05
astrokt2
0
未レビュー2009/05/30