内容説明
内奏―臣下が天皇に対し内々に報告する行為を指す。明治憲法下では、正式な裁可を求める「上奏」の前に行われた。戦後、日本国憲法下、天皇の政治関与は否定され、上奏は廃止、内奏もその方向にあった。だが昭和天皇の強い希望により、首相・閣僚らによる内奏は続けられる。天皇は「御下問」し、それは時に政治に影響を与えた。本書は、「奏」という行為から、天皇と近現代日本の政治について考える試みである。
目次
序章 「奏」の近代化―上奏・内奏
第１章 上奏と陸海軍―帷幄上奏と最終決定
第２章 内奏―曖昧な慣習の姿
第３章 権力者たちの認識―日記に登場する内奏
第４章 昭和天皇の「御下問」
第５章 敗戦直後の内奏―廃止と継続の迷走
第６章 自民党政権下の内奏
第７章 平成の内奏―代替わり後の継続と変化
終章 近現代日本の「内奏」とは
著者等紹介
後藤致人［ゴトウムネト］
１９６８（昭和４３）年神奈川県生まれ。９２年東北大学文学部史学科卒業。９８年東北大学大学院国際文化研究科アジア社会論講座博士課程後期満期退学。同年博士（国際文化東北大学）の学位取得。同年岩手県立大学盛岡短期大学部専任講師。２００３年同助教授。０５年４月より愛知学院大学文学部准教授。専攻は日本近現代史（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
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禿童子
33
臣下が天皇に「申し上げる」行為の総称が「奏上」、法律・方針の裁可を求めるフォーマルな奏上が「上奏」であり、その前の内々の説明が「内奏」であるが、憲法などの法律に定められたものではなく、政治家個々人によってコトバの使い方は様々、昭和天皇自身も誤解していた例がある（田中義一の上聞を上奏と勘違い）。奏上に対して天皇から質問する「御下問」すなわち天皇の意思の表明が実に鋭く、陸軍統帥部はご下問対策に苦慮していた。戦後、上奏は廃止されたが、内奏が引き続き政治を左右した事例が興味深い。佐藤栄作の君臣情義は深かった様子。2020/08/06
秋津
4
「臣下が天皇に対して申し述べる行為」の総称である「奏」（序章）のうち、特に慣習的に行われた内奏と、天皇の反応を中心に取り上げ、政治と天皇の関係について考察がなされている。陸海軍の「上奏」「奏上」等と天皇の「御下問」による意思表明、戦後の明仁皇太子・天皇への内奏や政治家の内奏観などが取り上げられている。特に後者は「平成流」についての考察でも重要と感じる。どうでもよいのですが、本書において用いられる史料が（実録ではなく）『昭和天皇独白録』なのが何故か感慨深く、また今日における研究の進展を感じるなあとも。2019/11/24
中将(予備役)
2
上奏という言葉の用法に始まり、「内奏」とは何かを解き明かす。掘り下げるのは畏れ多い話題でもあるが、近代以降、内奏がどう続いてきたかがよく分かった。天皇側から求めたり、平成には災害の話題が増えたりというのは興味深い。情報を積極的に取り入れることや御下問に批判的な者もあろうが、これらも天皇が在り方を考えて試行錯誤し続けている重要な慣例と拝察する。だからこそ臣下は慎重に扱わねばなるまい。先日の宮内庁長官による、陛下の五輪についての宸襟に関する発言は内奏後だったが、今後はいかに。2021/07/04
nagoyan
2
優。戦前戦後を通じて、実権を有しないとみなされてきた天皇が「内奏」という非公式なシステムによって、いかに現実政治にコミットしてきたかが明らかになる。著者は、「内奏」に現れた天皇の「政治」を肯定も否定もしない。ただ、張作霖爆殺事件の田中「上奏」に対する昭和天皇の「誤解」の意味を考える。戦前の天皇の軍事指導については山田朗が、現憲法制定後占領下日本の天皇の政治行為については進藤栄などによる研究も参考になろう。2010/04/21
Teo
2
内奏、戦前はそれに上奏なども含めたものが日本の政治に及ぼした影響を考える書。戦前は昭和天皇への上奏が陸軍の行動の歯止めに幾分なりともなっていたのが興味深い。2010/04/15
