出版社内容情報
マザー・グースの唄とはイギリスの伝承童謡の総称である。格言あり、なぞなぞあり、ナンセンスあり、英語国民の生活感覚や言語感覚の機微に満ち、そのことばは、現代英語のイディオムとなっている。このような英語文化の基盤をなすものへの理解を欠いては、高遠な文化論も文学論もむなしい。本書はマザー・グースの唄を紹介し、伝承童謡が英語文化のなかで果した役割を考える、英語に関心をもつすべての人にすすめる好著である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
zirou1984
41
英語圏文化の土台にあるものといえば聖書、シェイクスピア、そしてこのマザーグース。辞書を見ただけではわからない、その生活に根付いた言い回しの由来はとても興味深かった。多くの例が挙げられる中で印象的なのは、どれも巧みな韻回しで何となく口ずさんでしまいたくなるその響きの良さ。そして、多くの唄が真面目なふりをして裏であっかんべーをしている様な、シニカルでナンセンスな内容となっていることだ。音韻が意味を裏切り、言葉が好き勝手に踊り出している唄の数々。もしかしたら、今の日本語は少しだけ生真面目すぎるのかもしれない。2014/10/02
bookkeeper
38
★★★☆☆ 再読。イギリスの童謡"マザーグース"の紹介・解説本。ユーモラスで不条理でちょっと怖いものも…。英米小説で、取り返しのつかない損失などで「王様の馬と家来が総がかりでも…」との言い回しになったり、可憐な女の子が予期せぬ災難に遭う時に蜘蛛が言及される理由など、共通の精神基盤になっているとのこと。「かごめかごめ」や「通りゃんせ」に私達が抱く不気味さ・郷愁が海外の方にはわかりにくいのと同じかな。韻の踏み方から起源を推定したり、アカデミックな分析も。原語のリズミカルな調子など活字からは分からないのが残念。2024/01/22
ポップ
26
イギリスの伝承童謡。総計800編を超えるという。英語国で生まれ育った人には自明のようだ。イギリスの文献から歴史と由来、代表作の原詩と対訳を併せた解説は英文学の取っ掛かりに有難い。北原白秋、竹友藻風、谷川俊太郎さんの訳は抜粋ではあるが味読できた。何となく知っていた「ロンドン・ブリッジ」「ハンプティー・ダンプティー」「テン・リトル…」や「ジャックとジル」「六ペンスの唄」「だァれが殺した、コック・ロビンを?」他、ナンセンスな魅力に触れられた。本書で取り上げられたのは1割程度のため、流布した文献も手にしてみたい。2018/12/17
田氏
20
自分にとって、そして誰もいなくなったと言われたらアガサ・クリスティだし、ジョージー・ポージーといえばTotoだし、誰が殺したクックロビンと聞こえてきたらば例のポーズでパパンがパンである。そこにマザー・グースの文脈があって、英語文化圏ごと集合的無意識のように下支えしていることには、非・英語話者としては気がつきづらい。われわれでいうところの、「どんぶらこ」は川上から桃が流れてくる擬音でしかない…みたいな感覚だろうか。ある文字列がある文脈を内包する。突き詰めれば、言語それ自体が大きな文脈なのかもしれないけれど。2021/04/02
loanmeadime
17
”偏見の表現を抑止すれば偏見の現実は消え去るとでも思っているらしい進歩的人道主義者”は現代のネット社会にもうじゃうじゃいそうですが、歴代の堅物に伍してしぶとく広く生きてきたのが、イギリスの伝承童謡ということで、英語の文学の中には実にたくさん出て来るそうです。「そして誰もいなくなった」もマザー・グースの歌詞からだそうです。沢山紹介されている原詩の出だしで検索すると、ユーチューブが見つかり楽しめました。2021/11/05