内容説明
血の粛清から、ようやく立直りかけた町。殺した者。遺された者。没落に怯える者。成りあがり者。恨みを深く潜ませた者。それぞれの心に誰の仕業とも知れぬ中傷ビラが不穏な火を放ち…。そして、届くあてのない手紙を待ち続ける老人も。泥棒のいない村の、至って良心的な泥棒も。死してなおマコンドに君臨する処女の太母も。現実の深層にまで測鉛を下ろした10の物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
えりか
56
「悪い時」嫌な気持ちになる。町の中に貼られる中傷のビラは人々をどんどんと疑心暗鬼にさせる。もともとお金や権力、肉欲や恨みでいっぱいの人々を煽ることになる。個人の繋がりの中で、見る立場にも見られる立場にもなりえるということが人への抑止力になっているのだと思う。人間関係はそんな危うい均衡の上で成り立っているのではないだろうか。ビラはその均衡を容易く崩す。明日は自分のビラが貼られるかもしれないと、息を殺して生きていかなければならない。それだけ、みんな心の中では後暗いことを抱えている。嫌な気持ちになる話だった。2016/10/06
キジネコ
54
内乱と革命を繰り返した国家の平穏な日々到来は、一時の幻想に過ぎないのか。メデイアの怪、中傷のビラに呪いをかけて暁闇に走る影、猜疑の心に嫉妬の火を点し騒擾を煽るのは誰だ。柔らかな心に刺さる棘、眠れぬ夜の闇に呑まれる信頼の虚名と再び聞こえる内乱の足音、町の人々の胸騒ぎの夜が明ける。嫉妬が救い難い疫病の如く人を駆逐し、安住の町を破壊し、昨日の信仰を揺らす。異なる文化、環境、対極の場所で起きる様々に、瞑目し想像の力を動員しても 届かぬもどかしさがあるのに マルケスの描き出すカオスには、切なく懐かしい匂いがする。 2014/07/06
chanvesa
45
「大佐に手紙は来ない」はラストのドライな感覚がたまらない。大佐というからには威張りくさっていそうなイメージだが、ちょっとかわいそうなくらいしょんぼりしている様子と自棄と前向きのハイブリッドな心持ちに共感する。「この村に泥棒はいない」は結末がわかっているけど緊迫感が漂う。刑事コロンボみたい。「悪い時」は南米の政治権力や支配がテーマの一つであろうが、ビラは現代の垂れ流されるSNSの無署名の誹謗中傷を想起させる。町長の支配はあたかも闇社会のようだが、周囲の人々(とりまき)との癒着で悪がアメーバのようにはびこる。2020/12/02
かわうそ
32
表題作は視点が次々と切り替わる群像劇スタイルだけど筋書きも主題もなかなか見えてこない難物。当時の社会背景などがわからないと理解しにくい部分があるのかも。スピンオフ的なその他の短篇はどれも非常に面白く読んだ。特に「大佐に手紙は来ない」「火曜日の昼寝」「この村に泥棒はいない」がお気に入り。2014/12/23
のりすけたろう
22
マコンドものと新たな地域についての短編・中編作品でした。所々、場所や出来事が被っていたりして、あの時の話か!と思い出したりしながらの読書でした。悪い時は、雰囲気がずっと暗いし、悪い事ばかり起こるし、だいぶハラハラしながら読みました。次は、百年の孤独は読んだ事があるので族長の秋に挑戦です\(//∇//)\✨2020/11/13