出版社内容情報
この主人公は自分だ、と思う人とそうでない人に、日本人は二分される。
「恥の多い生涯を送って来ました」。そんな身もふたもない告白から男の手記は始まる。男は自分を偽り、ひとを欺き、取り返しようのない過ちを犯し、「失格」の判定を自らにくだす。でも、男が不在になると、彼を懐かしんで、ある女性は語るのだ。「とても素直で、よく気がきいて(中略)神様みたいないい子でした」と。ひとがひととして、ひとと生きる意味を問う、太宰治、捨て身の問題作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
1217
高校生の時に初めて読んで以来、何度目かの再読。第1の手記冒頭の跨線橋のエピソードや「罪のアント」など、物語のほとんどが記憶のうちにあるのだが、それでも再読に耐える小説だ。ただ、これを読むと荒涼とした、あるいは一種陰惨な気分に襲われることになるのだが。第3の手記の最後「ただ、一さいは過ぎて行きます」は、生に対する諦念と言いようのない寂寥感に満ちた表現だ。これに続く「あとがき」は評価が分かれそうだ。そこに、わずかな救いを見出すこともできるし、いっそ無い方がいいとする見方とに。私は、果てしない寂寥感の方をとる。2012/11/26
馨
1067
主人公の考え方が何となく今風で、引き込まれました。たった150ページで学生時代から27歳までを書いてしまうなんて凄い。自分を見せないために道化になって振る舞い(でも思わぬ人にバレるw)、自分の意思というわけでもないのに左翼活動を行ったり、面白いとは違うのだが何か笑えます。この主人公=太宰治本人のことなんでしょうか?2014/12/28
zero1
802
人間失格かどうか判断するのは誰?人生は恥ばかり?人は誰もが演じている?読者にとって鏡になる普遍的な作品を再読。葉蔵は他人が何を感じているか理解できない子だった。そのため道化を演じるが、中学の時、竹一に見破られてしまう。その後、高校進学で上京するが酒と女に溺れ心中騒動の末、退学となる。漫画家として収入を得るが…太宰自身が心中したこともあり、一部のファンからは神格化されている。その一方で全否定する文学者も。葉蔵は単なる小心者?葉蔵と太宰はどうすればよかったのか?誰もが内側に葉蔵を隠しているとは言えないか?2019/05/01
さくりや
457
再読。メンタルブレイクすると読んでいる気がする。葉蔵の破滅的な生き方には共感も同情もできないが、人の顔色を気にして道化になる、というのは誰もが自然とやっていることではなかろうか。その猟奇性に気づく人がいないだけで。おそらく太宰以外が書いたら「1文が長い」と怒られそうな、不思議な共鳴を生む文章が魅力的。「背後の高い窓から夕焼けの空が見え、鷗が、「女」という字みたいな形で飛んでいました。」しかしまあ凄いとしか言いようがないなおい。2018/07/06
Major
391
「第一の手記」冒頭の一文「恥の多い生涯を送ってきました。」この主語なしの無垢な告白に僕達読者は絶句する。人間を生きる以上、苦悩することよりも何と恥の多い日々を過ごしていることか・・・。罪は告白できても恥はなかなか明かせない。齢を重ねれば重ねるほどそのように思う。さて、この底流に当時の「転向」についての問題があるのだろうが、人の「信」の脆さを太宰はよく見抜いていた。しかし、そうした当時の時代背景から離れた21世紀を生きる僕達現代人にとっても、この一文の鋭い刃先は胸を突き刺す。(コメントへ続く)2015/01/06