講談社選書メチエ<br> 「怪異」の政治社会学―室町人の思考をさぐる

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講談社選書メチエ
「怪異」の政治社会学―室町人の思考をさぐる

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  • サイズ B6判/ページ数 272p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784062586290
  • NDC分類 210.46
  • Cコード C0321

出版社内容情報

人びとと権力の交錯するところ「怪異」は生じる。室町時代、京や奈良に跳梁する妖しきものたちが政権・寺社・民衆の姿をあぶり出す。 明治維新とともに、近代化と啓蒙の波が押し寄せ、医療や教育を中心に、「非合理的」な迷信の否定や克服が徹底的におこなわれるなかで、西欧列強に追いつき追い越すことをめざす人びとの目には、近代以前の社会の人びとが、「神仏や怨霊が、さらなる凶事の前触れとして怪異を引き起こす」と考え、それに対処してきた姿は、まさに非合理的なやりかたの典型として映った。(中略)
 もちろん、このような明治時代の近代主義的な視点がさまざまな問題をはらんでいることは、今日にいたるまでに、あらゆる学問において指摘され、克服されている。しかし、こと怪異にたいする見かたにかぎれば、具体的な一つひとつの怪異はたしかに技術の進歩によって解明されてきたこと、また解明された怪異は趣味や娯楽のなかに溶けこんでいることから、現代のわれわれも、じつは明治時代の人びとと大差ない見かたをしているのではなかろうか。
 つまり、非合理的なものを「ひとかけらでも」信じるような人びとは、そのなかから取捨選択をおこなう合理性さえもちあわせず、「すべて」丸呑みしていたのだろうと思いこんでしまい、古代から近世にいたるまでの社会を、ひとしなみに「宗教や怪異を信じる=非合理的」とみなして、近現代と対比しているのではないか。
 しかし、怪異は、激動する政権中枢と、密接にかかわってきたものである。それなのに、古代から近世にいたるまでの社会が、一貫して、怪異を、まったく同じように丸呑みしてきたとみなしてよいだろうか。前近代の社会は、そんなにも静態的なものではあるまい。
 むしろ、怪異とは、それぞれの時代の特徴を、もっとも生々しく切り取る切り口のひとつなのである。それぞれの時代の社会が直面し、そして説明しきれず、恐れねばならなかった問題は、いったいなんであったのか。その問題と関連づけながら、政権中枢に向かって、怪異を「しかける」にせよ、それにたいしてシビアに「受容すべきかどうか検証する」そして「対処する」にせよ、どのような思考や実践がおこなわれたのか。……政権、寺社、社会、三者のあいだでの動きや影響力は、そうした思考や実践のなかで、さまざまに変化するのである。
 怪異を切り口にすることで、政治・経済・文化にまたがる人びとの思考を、われわれは動態的にみてゆくことができるのである。(「はじめに」より)

  はじめに──怪異とは権力の問題である
  第一章 飛び交う怪異
   1 発信し収拾される怪異
   2 破裂する木像をめぐって
   3 風聞としての怪異
  第二章 求心性と都市性
   1 怪異がもっともあふれた時代
   2 要としての室町殿
   3 まなざしとささやきの交錯
  第三章 応仁・文明の乱の果てに
   1 いまだ戦乱ありうべし
   2 権力の真空への不安
   3 天狗の管領
  第四章 都市社会の矛盾
   1 貴賤群集
   2 勧進のプラスとマイナス
   3 怪異と経済の乖離
  第五章 システムの破綻
   1 注進六度におよびながら
   2 もはや神も仏もなし
   3 最後の花火のように
  第六章 中世から近世へ
   1 魔法か、奇行か
   2 変化の五十年
   3 天下泰平により
  むすびに


高谷 知佳[タカタニ チカ]
著・文・その他

内容説明

神像の破裂、山野の鳴動、奇怪な発光…。室町時代、京や奈良は不思議な現象に満ち満ちていた。戦乱下の都市に生きる人びとは、怨霊や天狗などをどう見なし、跳梁跋扈する異形がどこからあらわれると考えていたのか。都市民のまなざしと権力が交錯する場に注目し、妖しきものをとおして中世固有の心性をあぶりだす。

目次

第1章 飛び交う怪異
第2章 求心性と都市性
第3章 応仁・文明の乱の果てに
第4章 都市社会の矛盾
第5章 システムの破綻
第6章 中世から近世へ

著者等紹介

高谷知佳[タカタニチカ]
1980年奈良県生まれ。京都大学法学部卒業。現在、京都大学大学院法学研究科准教授。専攻は法制史、都市法をほとんどもたない日本中世都市に関心をもつ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

HANA

59
木像は破裂し、天狗は都の空を飛び、管領は魔法を使う。室町時代後期の怪異を、社会との関係性の中で論じた一冊。怪異を迷信ではなく、社会の論理とした上で論じる姿勢が何とも興味深い。特に京都という首都を巡って限られたパイを巡る上で怪異が使われていた、というのは目から鱗が落ちる思い。道理で都市的な神経症じみた印象を受けるものも多いわけである。木像の破裂を巡る駆け引きとその終焉や、細川政元のイメージの変遷もとりわけ興味深い。近世の到来とともに姿を消した室町の怪異、あまり知る事のなかったそれを面白く読むことが出来た。2016/07/01

りー

29
当時の日本人は怪異をただただ不思議なものとして受け入れていたわけではなく、意図を持って発信・収束していたのだという視点は、今後怪異譚を読む際に新たな視点を提供してくれるのではないか。その現象が起きることによって誰が得をするのかというのはこと怪談話なんかを読む時に僕に欠けてしまっていた視点なので勉強になった。後半は室町の歴史の話がほとんどだったので眠くなった。2016/12/17

糸くず

7
史料に残された「怪異」の記録から、中世、特に室町時代のソーシャルネットワークの発達と暴走、そして破綻までを見事に描き出した刺激的な一冊。初めは寺社と政権との間で収拾されていた凶事の前触れとしての怪異が、社会が怪異の知識を蓄えたために噂だけが拡散されるようになり、さらには、怪異の社会に対する影響力を知った寺社が信仰や利益を得るために、怪異を社会に向けて宣伝するようになる。こうした怪異をめぐる思考のうねりがとにかく面白い。そして、この本が示す怪異の力関係は、現代社会に溢れる情報の力関係にも繋がっている。2020/01/07

maqiso

6
室町時代は権力と富が京都に集中したが体制は曖昧であり、公家・武士・僧侶たちは各人が情報を集めネットワークを作って権益を守った。怪異は凶事の前兆とされ、寺社が訴え政権が収拾するという型が中世には成立していたが、ある出来事が貴族や武士の中で怪異と解釈され噂として広まったりと、政権にも対処できない怪異が蔓延した。政権が不安定になると都市住民も不安に駆られ、細川政元のような中心人物には怪異の噂が付きまとった。寺社は祭礼に人を集めるためにも怪異を喧伝したが、貴賤の集まる祭礼もまた怪異を生んだ。2023/04/23

大臣ぐサン

3
政治的な手段としての怪異という新しい視点から、室町の怪異を紐解く。確かに現代に伝わっている怪異としては、太平記などの一部を除いて、ほぼ平安と江戸に集中している。室町時代は寺社と政権の間の政治手段として怪異が用いられていたというのはなかなか面白い。百鬼夜行絵巻などは室町時代から始まったと言われるが、それとの関連はあるのだろうか。あまり手がついていない領域で今後の研究に期待したい。2021/02/08

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