内容説明
東洋思想の諸伝統、多様なる哲学間に共通する根源的思惟の元型を探求して、東洋哲学の新たな領域と可能性を立ち上げる。イスラーム、禅仏教、老荘思想、華厳経を時間論、存在論、意識論の視点から読み解く。『意識と本質』『意味の深みへ』に続く井筒哲学の集大成。巻末に司馬遼太郎との生前最後の対談を併載。
目次
1 事事無礙・理理無礙―存在解体のあと
2 創造不断―東洋的時間意識の元型
3 コスモスとアンチコスモス―東洋哲学の立場から
4 イスマイル派「暗殺団」―アラムート城砦のミュトスと思想
5 禅的意識のフィールド構造
対談 二十世紀末の闇と光(井筒俊彦;司馬遼太郎)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
109
井筒先生による岩波文庫の本が最近よく出されています。「神秘哲学」「意味の深みへ」に続いてのこの本です。三冊の中ではこれが一番読みやすい気がしました。というのは講演録がいくつかありはなしことばなので理解しやすい気がいました。国際テロに関する話が若干絡んでくる「イスマエル派「暗殺教団」」が興味深く読みました。最後には司馬遼太郎さんとの対談もあります。2019/07/15
syaori
56
東洋哲学を主題とする論攷を集めた本。イスラム神秘主義哲学の「存在一性論」を華厳哲学的に読み替える最初の論攷と、イブン・アラビーと道元の「時」の相違を扱ったものが印象に残りました。両者を包含する「根源的な東洋思想」(と著者が考えるもの)を基点に、一粒の「塵のなかに、存在世界全体を見る」という華厳の存在論の構造や、すべての存在は「神の息吹」により一瞬ごとに無から有へ、有から無へと変化しているというイスラム神秘主義の”時”の脈動を論理的に生き生きと開示する手腕は素晴らしく、知的好奇心を大いに掻き立てられました。2019/10/08
プロメテ
10
ギリシア時代から西洋哲学の主流は根本的にロゴス中心主義であった。東洋哲学はそこに対置されるように、内なるコスモスの秩序構造を破壊し、その安全性を奪う危険きわまりない力を孕んだ領域である。アンチコスモスとは、東洋にあり、ロゴスを破壊しようと世界内活動に対立し、蠢く、反対律である。アンチコスモスとは、端的にロゴスではなく、また世界内ではない。活動ではない。ではなんなのか?時である。客体的な、世界内の滅亡を見つめる、見つめるがゆえに滅亡とは関わりのないものである。前言語的、コトバ以前に息づく不条理は宿命である。2023/12/31
roughfractus02
8
西洋思想ではカオスはコスモスに先立つ空虚であり、コスモス形成に関与する原初の場とされるが、コスモスの調和的な秩序空間が自己展開を始めるとアンチコスモスとして対立し脅かす存在となる、と解されてきた。著者は、西洋的なカオスの矛盾した扱いの効果を、反ロゴス中心主義のポストモダン思想や反律法主義のイスラムのイスマイル派「暗殺団」の極端な態度に見出す。本書は、コスモスをカオスに対立させず、神秘体験を通して言語以前の原点として生活実践に組み入れる東洋思想を語り、コスモスに内在するカオスを探求する知のあり方を提起する。2021/01/17
amanon
8
難解なことを易しく説明するのが、一番難しい…その一番難しいことを一般的には馴染みのない宗教哲学の領域で成し遂げた。それだけでも類い稀な仕事。もちろん、その内容全てが理解できたわけではなく、その程度はかなりあやしい。それでも、幾度となく知的興奮を覚え、もっと先が読みたいと思わせる…そんな思想書がどれだけ存在するというのか?そう考えただけでも、著者の凄さが理解できる。やはり表題作がとりわけ印象的だったか。カオス=混沌というイメージが一般的に流布しているが、それだけには止まらない、豊穣な意味が含有されている。2019/11/07