出版社内容情報
悪夢，幻想，狂気――本書は言語化されたコルタサル自身のオブセッションであり，読む者をその妖しい魔力で呪縛して読後に烈しい恐怖と戦慄をもたらす，不気味で完璧なオニリスムの結晶である．幻想小説の至高点を求め続けた短篇の名手コルタサルの，その転換期の傑作「追い求める男」ほかに，息詰まるような緊張感をはらんで展開する四短篇を収録．
内容説明
悪夢、幻想、狂気―本書は言語化されたコルタサル自身のオブセッションであり、読む者をその妖しい魔力で呪縛して読後に烈しい恐怖と戦慄をもたらす、不気味で完璧なオニリスムの結晶である。幻想小説の至高点を求め続けた短篇の名手コルタサルの、その転換期の傑作「追い求める男」のほか、息詰まる緊張感をはらんで展開する四篇を収める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
コットン
85
内省的な小宇宙のような短編集。例えて言えば京都の町屋のように間口が狭いが、中に入ると独特な空間を感じるのに似ているのかなぁ。自分の好きなジャズを題材にしているので「追い求める男」が面白かった。出てくる人物がチャーリー・パーカーっぽいと思ったら自伝に忠実のようだ。特に時間の観念に縛られながらも時間から解き放される瞬間が幻想的だ！2014/04/03
藤月はな（灯れ松明の火）
35
乾いた口調で日常をつづりつつも日常にこそ、潜む狂気を掘り出していき、ラストでその狂気の怖さを提示するコルタサル作品。表題作のぎこちない二人の描写と最後に明かされた真実のラストにぞっとしました。2012/08/08
syota
30
アルゼンチンの作家コルタサルの中短編集。ホラー的な作品が多いが、最も衝撃的だったのはホラーとは無縁の中編『追い求める男』。ダンス音楽だったジャズを、自由なアドリブ主体の「即興の芸術」へと昇華させた稀代の天才、チャーリー・パーカーを描いている。見果てぬ地平を追い求める重圧と性格の弱さから酒とドラッグに溺れる姿が、作者の分身であるライターの目を通して浮かび上がってくる。ドラッグの幻覚の迫真性、その中から見えてくる天才の苦しみと人間的弱さ。創作とはいえ事実に基づいているだけに、圧倒的迫力で読み手に迫ってくる。2020/02/11
ドン•マルロー
30
どうやら一貫したテーマに基づいて編まれた短編集ではないようだ。作風といおうか作品のベクトルはまっぷたつに二分されており、それぞれ非現実と現実という枠組みの中に、忠実に振り分けられているような印象を受ける。晩年のチャーリー・パーカーをモデルにしたサックス奏者の話『追い求める男』は明らかにリアリズムの系譜に連なる作品だし、死者が何らかのかたちをとって復活する『母の手紙』『秘密の武器』は呪詛的な要素をふんだんに含んだ、幻想的な作品である。コルタサルの極めて重要な転換期を目で見て肌で感じられる珠玉の一冊だ。2016/02/24
長谷川透
28
コルタサルの小説は「夢（幻想）と現実の交錯」と紹介されるが、いざ読んでみれば一言で紹介できるような温い物ではないことに気付いて貰えるだろう。彼の小説は、まず「現実」という座標が宙に浮き、夢の世界がその隙間に入り込んで来る。現実と夢が混在する世界は、幻想、悪夢、白昼夢と様々な形容できるが、この著者の小説というのは読中は夢中になって食い入るように読んでいるにも関わらず、読後少し経つとその細部は曖昧で、物語の核のようなものだけが頭に残る。これはまさに夢そのもので、夢をテクストの形で具現化したのが彼の小説なのだ。2012/10/03
