内容説明
久米正雄は大正文学を語る上で欠かせない作家である。芥川、菊池らと共に「新思潮」に集い、様々な個性が競い合う文壇に新鮮な風を吹き込み、注目を集めた。「受験生の手記」「競漕」等の青春小説、絵画的で市井の一端を浮かびあがらせた俳句、多方面の才が反映された微苦笑を誘う随想など、多岐にわたる久米作品を精選する。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かっぱ
41
「私の父は私が八歳の春に死んだ。しかも自殺して死んだ。」で始まる「父の死」という作品のインパクトは大きい。小学校長であった父が御真影を焼いた責任を負って自殺。現代にすれば「なぜ」と思うけど、当時は珍しいことではなかったらしい。「競漕」はスポーツ小説のよう。「受験生の手記」はいまでも通じる作品。「流行火事」、「金魚」、「桟道」もおもしろい作品。関東大震災のことを書いた随筆も興味深い。師である漱石の長女との婚約破棄ということがあったようだが、趣味に生き、妻と欧米旅行に行くなど実人生を楽しんだ人のよう。2020/05/24
藤森かつき(Katsuki Fujimori)
33
久米正雄の誕生日に。芥川龍之介や菊池寛らと活動を共にした久米正雄の小説7、随筆13、俳句、解説、初出一覧、略年譜と盛り沢山。今年の夏に発行された新しい本。「受験生の手記」その準備状態では試験の結果は当然といえば当然。弟と同時受験とか厳しい状況。受験生の参考になるといいんだけど。小説の中では「競漕」と「金魚」が良かった。随筆は関東大震災から不意に戦後まで飛んでしまった。大正時代に活動期があったのだろうけど戦後も活動しているのだから、戦前・戦中のものも読めたら良かったなぁ、と思う。俳句は私にはちょっと難しい。2019/11/23
カブトムシ
27
近年久米正雄のこの本が新刊として出版されている。そのことを先日のどなたかの感想で知った。早速取り寄せて、今読んでいるところである。彼は、芥川龍之介の友人で、晩年の夏目漱石の木曜会にともに参加している。第4次「新思潮」の創刊号に、芥川が「鼻」を久米は「父の死」を載せている。「父の死」と言う小説が、本の一番最初に載せてある。私は、昭和39年の新潮社と昭和46年の集英社の日本文学全集を所有している。前者は「良友悪友」が後者は、「父の死」がわずかに、収録してあるのみだった。この新刊で、久米正雄の全体像を知りたい。
shinano
23
随筆に久米が鎌倉で体験した関東大震災でのものが二篇あり、幾人かの文人の名と動向が記されているのが資料でもあると思えた。 その時の久米が少なくとも一日一晩海軍が嫌いになったエピソードは興味深い。東京に残している母を心配し陸路交通が遮断されているので、海軍が派遣した特務艦に多くの民間人と横須賀で乗艦したが、東京へはなかなか上陸させてもらえず品川沖で上甲板に雑魚寝を強いられ一晩過ごし、偶然に同乗していた高浜虚子は特権で戦艦伊勢へ移っていったという。隣りに停泊中の戦艦長門の夜間灯に腹が立ったと。興味深い。2020/04/28
さゆき
10
悲惨ななかにもユーモラスな雰囲気をはらんだ作品集。「競漕」には少年漫画のような熱気がみなぎり、「受験生の手記」では優秀な弟の影に生きる兄の苦しみがリアルに描かれる。どれも日常に即した題材がとってあり、時代の隔絶を感じさせない筆致。随筆の方は青春を謳歌するパワフルな青年像が浮かぶ楽しいものが多かった。2019/09/05