出版社内容情報
芥川龍之介は万太郎の俳句を「「嘆かひ」の発句」と喝破した。万太郎は「俳句は余技」とした。その無防備を装って詠み上げられた余技は、日本語での詠嘆の美しさ、表現の自在さにおいて、他の俳句の追随を許さない。国民に広く愛唱されてきた。明治末年より亡くなる昭和38年までの半世紀間の全句8000句から900句を精選した。
目次
俳句(草の丈;「草の丈」時代拾遺;歌仙陽ざかりの卷(兩吟)
流寓抄
「流寓抄」時代拾遺
流寓抄以後)
小唄他
散文(文字に対する敏感;『道芝』跋;選後に;『草の丈』の序)
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
63
おおどかでいて繊細さと孤独を偲ぶ背中が見えるような俳句集。泉鏡花氏への敬愛、花街とそこに住まう人々への愛着、放浪や生活に見出す景色、決して一様ではない季節を鮮烈に切り取る視点の瑞々しさ。特に700首目の「椿落つ 妬心の闇の ふかき底」に漆黒よりも尚、混迷として深い暗がりと身体から抜け出だすような情念が重なり、一抹の官能を伴うようなマゾスティックな畏れを覚えてしまう。一方、散文では自分が表現したいと思った事に適した言葉を選び、使う事に対しての真摯さに同じ言葉を使いがちな私としては背筋が伸びます。2021/10/08
石油監査人
18
久保田万太郎は、大正から昭和時代の俳人、劇作家です。この本は、俳人の恩田侑布子が、久保田の作品から902句を選んだ句集で、自由で繊細な久保田の俳句の魅力を楽しむことが出来ます。例えば、人生のドラマを感じさせてくれる句として「きやうだいの縁うすかりし墓参かな」、日本的なしっとりとした恋句である「わが胸にすむ人ひとり冬の梅」、さらには、「時計屋の時計春の夜どれがほんと 」のように子供心と可笑しみを感じさせる句もあります。自由で親しみやすい久保田の俳句は、読み手の心にうるおいを与えてくれる気がします。2022/04/13
Takashi Takeuchi
14
句集としてとても良くできた本です。余白を充分とって大きめの文字で掲載された俳句。横に細かい文字で簡潔に読まれた背景が書かれた句もあり。後半に句集の初版の序文や和歌や散文も掲載されている。選者である恩田侑布子さんの解説も詳細で、初めて久保田万太郎を知るには最良の一冊だと思う。 「竹馬やいろはにほへとちりぢりに」 「湯豆腐のいのちのはてのうすあかり」2022/04/17
翰林菩薩
2
人生は破天荒。作家としても毀誉褒貶の激しい人であるが故にであろうか、俳句には自身の生活の純真・純粋さの結晶ともいうべき世界が広がっているのではなかろうか。2021/09/26
Eleanor
1
同じ、ないしは同じような言葉を続ける軽やかな俳句が多くて気に入った <春の夜の少しもつれし話かな><燗ぬるくあるひはあつく時雨かな><日向ぼこ日向がいやになりにけり> <逢へばまた逢った気になり螢籠><割りばしをわるしづごゝろきうりもみ><時雨傘さしかけられしだけの縁> あと、後書きの「57歳で魔がさし、33歳のぎと結婚。たちまち<うとましや声高妻も梅雨寒も>と詠む羽目に。」に笑った2023/02/17