出版社内容情報
詩情と求道心が混然一体となった文学者・国木田独歩(1871-1908)。「柔い心臓を持っていた」(芥川龍之介)詩人にして小説家である。その小説は
内容説明
詩情と求道心が渾然一体となった作家・国木田独歩(1871‐1908)。「柔かい心臓を持っていた」(芥川龍之介)詩人にして小説家である。その小説は、今に至るまで広く愛読されている。『運命』は独歩が一躍脚光を浴びた代表的短篇集である。「運命論者」「画の悲み」「空知川の岸辺」「非凡なる凡人」など、全9篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
michel
10
〈運命論者、巡査、酒中日記、馬上の友、悪魔、画の悲み、空知川の岸辺、非凡なる凡人、日の出〉どの作品も読み終わると、しみじみと心の奥に染み渡る詩情。巻末の宗像和重氏に〈…平凡な名もなき庶民と目されている一人一人の人生を照らしだす一閃の電光、ーすなわち「運命」の閃きこそが独歩の最大の関心事であった。そして、その「運命」に翻弄され、あるいは克服しようとする人間の、それぞれに異なりつつどこか重なり合う姿を、独歩は飽くことなくなく描き続けた。そこに、独歩が短編作家である所以があり、独歩の短編小説の魅力があると思う〉2022/07/16
袖崎いたる
8
短編小説集。国木田独歩は短編にこだわりのある作家だったとのこと。詩人とも言われるくらいなので、圧のある一文がキラッと光るのが良い。「運命論者」の印象は、この時代の日本のタブーって究極このパターンなんやなぁってこと。出生に関わることなんやけど、今このネタを使ったら陳腐で食えたものじゃないだろうな。2022/02/27
広瀬研究会
6
明治35~36年の作品群なので、主人公が運命に翻弄される『運命論者』とか『酒中日記』なんかは現代の読者には素朴というか、物足りないんじゃないかなって気がした。それにひきかえ、『画の悲み』や『非凡なる凡人』のように少年の友情あるいは刻苦勉励を書いた作品は面白く、テーマに普遍性があるってことなんだろうな。中でも『馬上の友』で描かれる汚れのない友情は、現代小説では嘘くさくなってしまうくらいのさわやかさと切なさ。最高でした。2022/08/15
まどの一哉
3
「武蔵野」その他の印象から、なんとなく私小説的な作品を予想していたが、表題作ほか遠慮なくドラマ性の濃い作品もあって意外な気がした。なんでも書ける作家だ。 「酒中日記」:短い作品中にこれでもかというほど次々と主人公に事件が降りかかる。母親に大金を盗られたその日に大金が入った鞄を拾うなど、やや作りすぎな印象はある。気立ての優しい主人公の運命は悲惨だが、この日記が平穏な現在から過去のことを思い出して書いているので、それがひとつのクッションとなっていた。だが結末はやはり悲しい。2022/03/12
菊田和弘
2
一人一人の「運命」と向き合った9つの短編集。それぞれの「運命」の下で、その人はどう「運命」を乗り越えるのか、乗り越えられないのか。その中で、人への切望や、変化への欲求もまた普遍的なものとして共感できました。日記や手紙でなら告白できるものがある。現代ではSNSもある。胸の内を語りたい欲求は、明日を生きるための希望なのだと納得。逆に、嘘で真実を隠し通そうとする悪魔も描かれています。どうやったら悪魔を減らせるのか。「聴くこと」なのでしょうか。2022/08/22