出版社内容情報
原発事故下、住民救助や避難誘導、原発構内での活動にもあたった地元消防。その全容が初めて語られる。
内容説明
われわれは生きて戻れるのか?―原発が爆発・暴走するなか、地震・津波被災者の救助や避難誘導、さらには原発構内での給水活動や火災対応にもあたった福島県双葉消防本部の消防士たち。他県消防の応援も得られず、不眠不休で続けられた地元消防の苦難と葛藤が初めて語られた。一人一人への丹念な取材にもとづく渾身のノンフィクション。
目次
1 大震災発生―3月11日
2 暴走する原発―3月12日
3 原発構内へ―3月13日
4 三号機爆発―3月14日
5 「さよなら会議」―3月15日
6 四号機火災―3月16日
7 仕事と家族の間で―3月17日~月未
8 孤塁を守る
著者等紹介
吉田千亜[ヨシダチア]
1977年生まれ。フリーライター。福島第一原発事故後、被害者・避難者の取材、サポートを続ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
144
第42回(2020年)講談社ノンフィクション賞。 2011年福島原発事故に際して、救助に奮闘した福島県双葉消防本部の消防士たちの物語である。人命救助を職務とする消防士たちの骨太な 生き方が心に響く。危険が近づいてくる中で、救助のために 自分の命をかけた 人たちの 今に伝えるべき ノンフィクションである。2020/11/15
ちゃちゃ
129
3.11…未曾有の災害に、命を賭して不眠不休の活動を続けた地元の消防士たち。地域を守る彼らの救急・救助活動は、これまでほとんど報道されることがなかったという。原発の安全性を疑うことなく暮らした日々は何だったのか。被爆の恐怖と向き合いつつ懸命に任務を遂行した数日間。家族の安否を心配し葛藤に苦しみながらも、自らを特攻隊になぞらえ遺書を手にして危険な現場に向かった彼ら。本書はその孤塁を守る闘いを、抑制的な筆致に徹して事実と証言を記録した優れたノンフィクションだ。彼らの献身の痕跡を心に深く刻む、10年目の今日。2021/03/11
しいたけ
124
この時期にとってつけたように関連本を読むことを、今年はやめようと思っていた。なのに本屋で何故か惹きつけられた。レビューはあげずにおこうと思っていた。けれど書かねばならないと思い至った。東京消防庁のハイパーレスキューは大きく取り上げられた。しかし、地震と原発事故をもろに喰らい、防護服も線量計もなく捨て駒のようにつかわれた彼らの孤独な戦いは知られることがなかった。被ばくより、自分たちの存在が忘れられることが辛かったという。文字にして記録して欲しいという。ならば読まねばなるまい。私は読んだと声にせねばなるまい。2020/03/11
trazom
96
「個人的な思いや感情は排し、証言と事実を書き続けた」という著者の姿勢が、悲劇を一層浮き彫りにする。タイベック姿を「汚染した人」と罵る偏見、危険を知らされず原発現場に投入される「特攻隊」…正に「孤塁」の戦いである。多くの隊員が「我々の活動は国や県の記録に残っているのか」と問う。「ヒーローになる必要はない。忘れないでほしい。我々の経験を生かしてほしい」と。奇しくもコロナ騒動の中、同様に身を賭して戦ってくれる人たちがいる。今度こそ「これほど風化が早いとは思わなかった」という消防士の述懐を繰返してはならない。2020/07/06
けんとまん1007
94
適当な言葉が浮かばない。凄まじい状況、命を危険に晒して、罹災者でありながら消防士の枠を超えた要求への対応などなど。そこにあった事実を淡々とした文章で綴ることで、却って伝わってくるものがある。それぞれ、一人の人としての葛藤がそこにある。繰り返されてきた「絶対に事故は起きない。安全です。」という嘘。それを無視する輩が徘徊し、増殖している今の時代。当時、このような役目を負った人たちがいること、そして、まだ終わっていないことを忘れてはいけない。2020/03/27