内容説明
うすよごれた地上の現実がいやになったら宇宙に飛び出そう!子供の頃から月にあこがれて宇宙飛行士になったソ連の若者オモンに下された命令は、帰ることのできない月への特攻飛行!アメリカのアポロが着陸したのが月の表なら、ソ連のオモンは月の裏側をめざす。宇宙開発の競争なんてどうせ人間の妄想の産物にすぎないのさ!?だからロケットで月に行った英雄はいまも必死に自転車をこぎつづけている!ロシアのベストセラー作家ペレーヴィンが描く地上のスペース・ファンタジー。
著者等紹介
ペレーヴィン,ヴィクトル[ペレーヴィン,ヴィクトル][Пелевин,Виктор]
1962年、モスクワ生まれ。20世紀末のロシアに登場して以来、絶大な人気を誇り、国外からも熱い注目を浴びつづけている現代作家
尾山慎二[オヤマシンジ]
翻訳者。早稲田大学ロシア文学専修卒。現代ロシア文学その他、書籍・論文等の翻訳・編集に従事している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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harass
43
図書館本。少年は望んでいた宇宙飛行士養成学校に入学し、厳しい訓練を受ける。末期のソ連は一般にはひた隠しにしていたが、米国との宇宙開発競争にすでに完敗していることは承知していた…… 実にグロテスクな滑稽で哀しい小説だ。SFアイデア的には少し手垢がついたものだが、ポエジー溢れる描写がありなかなか良かった。荒廃したソ連社会のイメージがよい。いくつかついていけない箇所があり、解説を読んですこしは納得。ソ連体制批判ものが好きな方にはぜひ。2016/04/13
syaori
34
宇宙飛行士を目指すオモンの物語。宇宙飛行士に憧れた彼の少年時代と、彼が参加することになった月の裏側へ行くプロジェクトの顛末が語られます。繰り返されるフレーズ、未来からのこだま、薬による意識の断絶、精神論に頼る行き詰まった祖国(ソ連)、英雄になることを求められる非合理。そして幾重にもめぐらされた虚構の上に成り立って明らかになるばかばかしくも哀しい事実。しかしこれを語るオモンの語り口はとても詩的で、どこか郷愁に満ちているようにも感じるのは、これが彼の過ぎ去った青春(夢)の物語でもあるからなのかもしれません。2016/09/09
junkty@灯れ松明の火
34
変わった読後感。何処までが真実で、何処までが虚構なのか?結局よく分からない。でも変な魅力があるんだよな~。旧ソ連の体制への批判、人間の精神世界の無限の広がり・・・う~ん、何だか良く分からないし、説明も上手く出来ないけど嫌いじゃない。ハリボテ感満載なのに何かリアル。う~ん、やっぱり良い意味で変な読後感です。2012/03/14
ヘラジカ
33
『iPhuck10』刊行記念に読了。虚構的国家ソ連が生み出したグロテスクで悲しい現代の寓話。超現実的な悪夢感は笑いと恐怖の合間を行き来する。とにかく状況を掴みかねるほどブラックな展開に幻惑させられるが、オモンが宇宙飛行に目覚める際の精緻で複雑な表現や、任務が開始されてからの終盤は素晴らしく美しい。語り口がとても落ち着いていて感情の左右がないだけに、一層白昼夢を見ているようだった。『黄色い矢』同様に夢から解放され(覚醒ではなく)希望の見えるラストが良い。2018/08/18
ミツ
32
“月の裏側など本当はない。すべてが闇なのだから”無限の宇宙に輝く数多の星星と夜空に浮かぶ月。少年オモンの夢見た美しい未来世紀と涙で滲んだ宇宙船の窓越しに見る書割のようにチープな地球の対比に胸が締め付けられる思いだった。私たちが生きている世界は何か大きな冗談で、すべてはまがいものかもしれない。乾いた笑いに満ちたこの月世界旅行はさながら醒めない悪夢のようであり、虚構とも現実ともつかない酩酊感は精神の深宇宙へとどこまでも堕ちてゆくようでもあり、なんともうすら寒い。ペレーヴィン、怖い作家かもしれない。2015/06/21