内容説明
人は「あらゆる時間」「あらゆる空間」に生きている。…遍在する生…戦争前後の時空を律儀なまでに活写した作品に浮かびあがる人間本来の姿その文章は、漢籍に親しんだ戦前日本人にも稀有な広がりと均斉を保つ!今日に至るまで他のどこにも類似作品のない珠玉の作品群から六作を厳選。
著者等紹介
石上玄一郎[イシガミゲンイチロウ]
本名上田重彦。明治43(1910)年札幌生まれ。早くに両親を亡くし、父の郷里盛岡で祖母に育てられる。旧制弘前高校在学中に左翼運動に傾斜、放校処分に。同学年に太宰治がいた。その後、陸中巌、石上玄一郎の筆名で創作活動を開始、昭和14年「針」で文壇デビュー。昭和17年「精神病学教室」を発表し、作家的地位を確立する。昭和27年同人誌『現象』を創刊。実存思想、仏教思想への傾斜、東北の土俗への関心が深く絡まり合い、人間存在の根本的諸層をその最深部から鮮やかに抉り出す特異な作風を確立した
荒川洋治[アラカワヨウジ]
1949年、福井県生まれ。早大卒。2005年、新潮創刊100周年記念『名短篇』を編集。著書に『空中の茱萸』(第51回読売文学賞)、『忘れられる過去』(第20回講談社エッセイ賞)、『文芸時評という感想』(第5回小林秀雄賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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三柴ゆよし
12
石上玄一郎は一九一〇年札幌に生まれた。はやくに父母を亡くし、父の旧家がある岩手県盛岡市に移り住む。父は有島武郎の親友であり、玄一郎はといえば弘前高等学校で津島修治(後の太宰治)と同窓、在学時の彼の作品に若き太宰は衝撃を受け、同人誌『細胞文藝』の創刊に際し接触をはかったが、両者の話は終始噛み合わなかったという。在学中から左翼運動に熱を上げ、学校を放校。その後も左翼の闘士として活躍していたが、一九三三年、祖母の死を機に政治活動を離れ文学に専心。フッサールの現象学や仏教思想に依拠した作品群を残した。享年九九歳。2018/05/28
Mark.jr
4
知る人ぞ知るカルト作家、石上玄一郎。とはいっても、活動していたの昭和期なので、パンクな感じではなく、伝統的な日本文学マナーに乗っ取ったものです。本書はそれぞれ戦前の作品と戦後の作品が収録されていますが、戦争体験を通過したリアリズム寄りの戦後のものよりも、地元東北の伝奇性を感じる戦前のものの方が面白く思いました。特にお気に入りは「鰓裂」。幻想文学のアンソロジーに取り上げられてもおかしくないです。2022/06/07
栞
1
図書館本。荒川洋治編”今日に至るまで他のどこにも類似作品のない珠玉の作品群から六作を厳選”とある。1939~1956発表の6作。何となく目につき借りてみたが、独特の世界観と湿度や陰りを感じる何とも言えない雰囲気に惹きつけられた。「針」と「秋の蟇」が特に好き。他の作品集も読んでみたい。2021/11/13
ひょうたんハンター
0
すばらしかった。ひょんなことから読んでみたが、とても良かった!2011/08/30