目次
芦屋のころ
旅のむこう
となり町の山車のように
街
日記/一九七一年四月十日・土曜日
きらめく海のトリエステ
思い出せなかった話
Z―。
チェザレの家
ある日、会って…
塩一トンの読書
本とその「物語」
父ゆずり
松山さんの歩幅
翠さんの本
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Gotoran
42
2000年に刊行された『須賀敦子全集』を定本とし、その中から選択された14編のアンソロジー(『ミラノ霧の風景』『コルシア書店の仲間たち』『ヴェネツィアの宿』『トリエステの坂道』『ユルスナールの靴』『遠い朝の本たち』『時のかけらたち』他から)。幼少の頃の思い出、ミラノの街で過ごした日々等々、父母、夫、友人たちとの追憶が綴られている。多くは単行本、文庫本で一度は目にしているが、味わい深く、静謐な知性溢れた豊かな散文世界に再度浸ることが出来た。次は、未読の『塩一トンの読書』を読もう。2015/07/24
松風
21
須賀敦子さんのエッセイ傑作選。初読みに良いかも。2015/01/23
plum
6
シンプルな白い表紙の,持って読むのに丁度よいサイズの本。列車は,そこここの駅の時間を集めてつなげる仕事をしているとか,ゴシックの大聖堂を側面から眺めたときに,突然教会は巨大な木造船のようにみえた,という感覚に敬服。池内紀(解説)は「神託」を聴いていたのだと評した。ジャンアンドレア・ピッチョリさん(73)は「アツコは洞察力に優れていた」と振り返る(YOMIURI ONLINE新おとな総研2015024)。彼女の言葉から紡ぎだされる,そこここの物語を読むにつけ,私もそう思う。2015/02/24
波多野七月
6
「きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ」硬質で美しく、凛々しくてどこか雄々しく。それでいて、まるで物語の序章を思わせる。こんな名文が、他にあるだろうか。須賀敦子さんの文章を読むたびに、いつもヨーロッパの街並みや石畳を旅しているような気分になってくる。『ユルスナールの靴』をはじめ、『コルシア書店の仲間たち』や『遠い朝の本たち』から収録された作品が並ぶアンソロジー。叢書サイズの、白い装丁がまた素晴らしい。ぜひ、手元に置いておきたくなる一冊です。2014/07/21
どんぐり
2
池内紀の解説がいい。「風や雲、光のぐあいを描写しても、須賀敦子の場合、風や雲や光だけにとどまらない。自然の風物を超える運命的なものがある。風や雲や光が特有の影をおびて迫ってくる。そしていのちの比喩にも、死の囁きにもなる」。この選書のなかで好きなのが、『旅のむこう』だ。「汽車がトンネルに入って、母の顔が消え、トンネルを出ると、小さな白いハンカチを口にあてた母がおかしそうに笑っている顔が、煙のなかから出てくる。そして、また消える」。トンネルが多い高山本線の汽車の旅。母親と娘の情感ががさりげなく描かれている。2011/11/27