出版社内容情報
民衆は知の欲望をどのように満たしていったのか?
ラジオやテレビ、インターネットのない時代、19世紀末のフランスの小村に暮らす普通の人々――農民や手工業者たち――も地理・歴史・科学に関する想像力を満たし、道徳や公共心を吸収したいという欲望をもっていた。
『記録を残さなかった男の歴史』で記録のない木靴職人ピナゴの人生を鮮やかに浮彫りにした“感性の歴史家”アラン・コルバンが、百数十年前に一人の教師がおこなった連続講演会を甦らせ、人々の知識欲の開花の瞬間を捉える画期的問題作。
[附]年譜・地図
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こばまり
33
残された資料を基に失われた講演を再現する、なんともロマンチックな試みです。講演の内容は当然古びていますが、話し手のみならず聴き手の姿まで蘇る様は刺激的。ところで著者近影が男前なのです。セピアカラーの写真ですがこのシャツはダンガリーかしら、そうならいいのに似合いそう。などと不謹慎な思いを馳せておりました。2015/03/29
evifrei
19
フランスの農村で行われた連続講演の様子を描き出す。男性を中心に(女性の労働は拘束時間が長かったので参加が難しかったらしい)様々な聴講者が熱心に小学校教員・ボモール氏の講演に参加したが、文化の遅れに自覚的でありながらも多くの知識を吸収したいと願う彼らの姿が目に浮かぶ様だ。講演の内容はハイレベルなものとはいえないのだが、ジャンヌ・ダルクやシャルロット・コルデーなどの政治上の人物を扱い祖国愛を啓発したり、土壌の改良について論じたりと多岐にわたる。「知りたい」という欲求は場所・時代を越えて普遍的なものなのだろう。2020/08/26
ごん
2
朝日新聞の書評で、概略は言い尽くされていた。歴史に名を残すことはないけれど、地道に啓蒙活動に取り組む田舎教師。今もいますよ、日本にもいますわ。大勢いますわ。この作品のような手法で、戦前の日本の田舎教師等の歴史研究が行われれば、民間人の戦争に向かう意識が見えてくるかも。フィクションや後日の思い込みではないやつが。2015/02/26
まさん
0
コルバンの試みがとても興味深い一冊。講演会の題目と、当時の時代状況や歴史的事実などを組み合わせることで、講演会の内容を構築するなんて、常人では考えられない。「これは、『作られたもの』なんだよなぁ」と意識をしていないと、(言い方は悪いが)コルバンに騙されてしまう。多々騙されながら読み終わった。2015/06/01
渓流
0
話の内容はともかく、日本の江戸後期、フランスの片田舎で、飯の種にもならない話に、200人近くの聴衆が集まってくること自体、すごい。まさに、ここに知識欲誕生の一例を見る。英雄美女の歴史もいいが、市井に生きる人々に光を当てる歴史叙述もまたいい。2015/02/26