出版社内容情報
ことばの奥深く潜む魂から近代を鋭く抉る鎮魂の文学
「南国的な島の樹に逢いにゆくのに雪が降る。雪は私に、常世の樹を探しにゆくのだという幻想をもたらした。いにしえ、私たちの先祖は、時じくの香の木の実を探しに海の彼方へと出かけたが、根の国、あるいは神たちの故郷の常世へゆく目じるしの樹はどこか。なぜ私はそこへゆきたいのか。生類たちは遙かなあの根源から、全き生命として甦えらねばならない、私もよみがえりたい。水俣からの願望を抱えて旅立つにふさわしく、さびかな雪空であった。」
(本文より)
目次
1 常世の樹(船つなぎの木―天草上島栖本;言霊の寄る花―五島福江島 ほか)
2 『常世の樹』をめぐって(水を呑む樹;気配たちの賑わい ほか)
3 あやはべるの島へ(あやはびら;綾蝶生き魂―南島その濃密なる時間と空間(島尾敏雄・松浦豊敏・前山光則との座談会) ほか)
4 エッセイ―1973‐1974(ちいさな岬のこと;生き供養 ほか)