出版社内容情報
ことばの奥深く潜む魂から近代を鋭く抉る鎮魂の文学
「『あやとりの記』で表出された作者の原罪感・欠損感は、近代以前の、中世的な伝統につながっている。人間のかなしみと煩悩の深さを身悶えしながら掻きくどく説教節的語り口がこの作品ではかなり意識して使われているが、個的なかなしみの根には幾代にも降り積って来た前近代の民のかなしみがあって、その根を掘ることのない個の意識に閉ざれた近代文学の方法では、真の救済の文学は生れないと作者は考えているのではないか。」
(渡辺京二氏評)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
algon
8
単行本を広域サービスで予約したら300km旅をして全集本が来た。半分は「おえん遊行」、これで著者長編を完読となった。「苦界浄土」未完の頃、「あやとりの記」の後の著作で不思議作家みっちんが描く世界としてはその個性が強く出た作品と思った。島に嵐が押し寄せ全ての船を失った。潮をかぶった島の飢饉に疫病、旱魃、イナゴが襲い、主だった年寄りが次々に死んでゆく。そんな中、狂った女乞食のおえんと海から救われた啞の阿茶様は島社会の隙間でひっそりと暮らしていた…。著者の観ずる自然の様相をフィールドに魂の深い所で響きあう物語。2024/04/22
yuki
3
田中優子さんの「苦海・浄土・日本」という本に紹介されている「おえん遊行」が収められていたのが第8巻。「おえん」さんと呼ばれる乞食の女性のすがたは本当に神々しいのかったです。「自分の姿そのまんまでいられる者たちが、神にも仏にもなれるのかもしれん」という旅芸人の言葉は、他人や社会の評価ばかりを気にしてしまうわたしたちに対する厳しい批判です。石牟礼さんはいつも新しい見方を教えてくれます。2021/01/06