出版社内容情報
ことばの奥深く潜む魂から近代を鋭く抉る鎮魂の文学
「本書の各章を形づくるエピソードは、もはや取り返しのつかない過去の生活の驚嘆すべき甦りにほかならない。石牟礼道子は、蜜蜂が花の露の一粒一粒から、あんなにも美しく甘い蜜の輝きとねばりを造りだすように、日常茶飯の記憶の堆積から、長い歳月をかけて、ゆっくりとこれらの物語を醸成した。男も女も、その漂流の姿のまま哀しく、あるいは儚く、描き分けられ、一人ずつのかけがえない命を燃やして生きている。」
(大岡信氏評)
内容説明
石牟礼道子の“原風景”。
目次
1 椿の海の記(岬;岩どの提燈;往還道 ほか)
2 『椿の海の記』をめぐって(本との出会い;わたしの戦後;この世が影を失うとき ほか)
3 エッセイ1969‐1970(族母たち;おなご廃業;水俣病患者たちのこころ ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
くるり(なかむらくりこ)
1
今や石牟礼さんは、畏れ多くも私の中では「みっちん」となった。並々ならぬ感性を生まれ持ったうえ、自然も人間の縁も業の深い水俣という地でその天性を醸成させ、物事の本質に共鳴する少女みっちんの姿は、愛おしくも痛々しい。秋の野山に官能を感じ、「神経どん」の祖母に寄り添い、遊郭の妓たちに憧憬したみっちんが、やがて水俣病と出会い『苦海浄土』を書くに至るのはさだめであった。運動に身を投じても「運動家」にはなり下がらずあくまでも詩人であり続けたのは、この幼いみっちんの豊かな日々ゆえなのだ。2012/06/29