出版社内容情報
ことばの奥深く潜む魂から“近代”を鋭く抉る、鎮魂の文学
「短歌は、詠嘆にはじまり詠嘆に帰結するのではないか。架空の小市民的団欒を芸術的であると思い込む幻想。永久に生活に根づかないサロンへの憧憬。そのような中間性から生れるかぎり短歌は文芸でしかあり得ない。私だけではなかつた。療養作家の悲痛な作品すら個人の美しき終焉としてかざられ人間の深部をえぐらぬのはなぜだろう。重い詠嘆を切りすてる、そうすることでしか再び短歌を、あののびやかなきびしい詩性をみいだすことが出来ぬから。」
(本文より)
目次
I エッセイ
タデ子の記
光
短歌への慕情
「変調語」 より
沼川良太郎論
可子夫人のうた
白 暮
八幡部落を通る
風神通信
いとしさの行方
南九州の土壌
愛情論初稿
詠嘆へのわかれ
妣たちへの文序章
おもかさま幻想
階層のメタンガス
順々おくり
舟曵き唄
とんとん村
水俣病
ゆのつるの記
水俣病、そのわざわいに泣く少女たち
南九州の女たち ―― 貞操帯
詩と真実
主観の風景化
とうきびが実を組むように
桶屋の発明
石の花
野鍛冶の娘より
海 へ
観音まつり
故郷と文体
カツオに躍る夢
氏族の野宴
刺身のつまの発言
トンカツをどうぞ
高群逸枝さんを追慕する
恥の共有について
未発の志を継ぐ
この世がみえるとは ―― 谷川雁への手紙
底辺の神々
秀島由己男の画
松田富次君とラジオ
孤立宣言
ねばっこい日本的余情 ―― 『負籠の細道』 (水上勉 著) を読む
パラソル
ふゆじのお大臣
水俣病その後
橋本憲三氏へ
海底からの証言
ボーヴォワールの来日と高群逸枝
「どこで生れた者かわからんように」
高群逸枝との対話のために ―― まだ覚え書の 「最後の人・ノート」 から
まぼろしの村民権 ―― 恥ずべき水俣病の契約書
わが不知火
菊とナガサキ
続・菊とナガサキ
阿賀のニゴイが舌を刺す
西南役伝説
II 詩
朝
虹
点 滅
とのさまがえる
埴生の宿
烏 瓜
馬酔木の鈴
川祭り
娼 婦
連 帯
集 会
胎 教
出 生
午 睡
卑弥呼
朱い草履
風
木樵り
なすびをたべているおかあさん
七 草
虹
野鍛冶の女房
花
花紫賣りのおつやしゃん
花をあなたに
水 影
墓の中でうたう歌
受 胎
糸繰りうた
隠 亡
背中のうた
便 り
瓔 珞
とんぼ
いっぽん橋
「初期詩篇」 の世界 (インタビュー)
III 短歌
友が憶えゐてくれし十七のころの歌
冬の山 (二〇首)
満ち潮 (五首)
道 生 (二三首)
泡の声 (三六首)
わだちの音 (一六首)
白 猫 (一〇首)
春蟬 (九首)
うから (二三首)
春 衣 (一四首)
木 霊 (一九首)
白痴の街 (一三首)
火を焚く (一二首)
雪 (一六首)
氾れおつる河 (一九首)
藻 (一五首)
にごり酒 (一八首)
指を流るる川 (一四首)
海と空のあいだに (一二首)
鴉 (一八首)
廃 駅 (一六首)
あらあら覚え
解 説 「そこで生きとおしている人の詩」 金時鐘
あとがき
後 記