感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
harass
76
いまだに未翻訳作の訳本がでるこのノワール作家を久しぶりに読む。12章ごとに一人一回づつ語り手が変わる他視点小説。田舎の小さな事件を利用するされるものたちの群像劇。実に居心地の悪い世界を見せつける無二の作家だと感心。訳者あとがきや解説も良い。特に映画批評家の吉田広明の解説、細部の圧倒的なパワー、「大きな流れの中に唐突に出現する小さな歪み。それが全体の印象を左右するほどに大きなインパクトを持ってしまう。」バランスが悪いといえばそれまでだが、この作品の中では特に、大尉の言動にトンプソンらしさを見た。良書。2018/10/03
ペグ
70
ジム・トンプスンを黒原敏行さんが訳した!私にとっては、もうこれだけで垂涎もの。多視点小説。語る人物は皆複雑な思いを抱き全編を覆う不穏な空気は正にノワール。ハッピーエンドどころではないけれど又読みたいと思う作品。2018/09/03
ネコベス
29
タルバート夫妻の息子ボブが近所の少女を殺害した容疑で逮捕される。打ちひしがれる夫婦、憤る被害者夫婦、部数を伸ばす為扇情的な報道に明け暮れる新聞社のオーナーと編集者、記者や慎重な判事に老獪な弁護士等複数の視点から事件を通して現れる人間模様を描いた群像劇。他のトンプスン傑作群と比べるとあっさりし過ぎで物足りないが、不仲なのについおしゃべりに興が乗るマーサとフェイの妻同士の近所付き合いの様子やアレンの会社と家での振る舞いの違い、傲慢な新聞社オーナーに苦しめられる編集者等細やかな人物造形が巧み。2018/12/13
hikarunoir
17
語り手の多視点は他作にも似るが、当時は刺激的であろう罪の謎解きも放り出し、異形の存在が突如現れ放り出されるのが著者らしく、訳者との相性も最高。2019/11/24
bapaksejahtera
14
トンプソンの未訳作品を集めたシリーズ。いずれの本も多作ながらも充分に読ませる作家の特徴がよく出ている。解説も翻訳者と映画批評家が、中身のある文章を載せていて興味深い。舞台はWW2から数年経った南部の小さな町。子供ができてからそれが思春期を迎えるまでの期間、隣づきあいをしてきた2家族。一方の家の早熟な娘が殺され、それと幼なじみの少年が疑いを被り勾留される。この事件を巡る其々家族の混乱の他、検事当局や弁護士の思惑、売らんかなの記事作りに励む新聞社等が、具体的には描かれない犯罪行為以上にノアールに描かれる佳作。2022/11/06