内容説明
頽廃した職業倫理や残忍な犯罪が横行する今日、合理性と道徳性とを踏まえ、ソクラテス以来のこの難問に第一線の哲学者たちが徹底論争。
目次
1 オープニング・セッション―Why be moral?問題の核心(やってはいけないことは、やってはいけないのだ;「道徳」ということの分析を介して;なぜ悪いことをしてもよいのか)
2 コメント―Why be moral?問題の討議(Why be moral?とは「なぜ悪いことをしてはならないのか」という問いなのか;何が論点であるべきか;徹底的利己主義をさらに徹底化する途へ;道徳の不如意ないし不如意の道徳;自己の存立を可能にするための道徳;一政治学徒による道学者風のつぶやき)
3 リプライ―Why be moral?問題の行く末(世界の利己主義としての倫理;議論のさらなる展開のために;どうして、こうも悪を水増しするのだろう?)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
テツ
22
永井先生の部分を読みたくて友人から借りました。先生が多くの著書で説く〈私〉の存在をぼんやりとでも知ってから読むと、悪いことをしてはいけない理由は〈私〉は〈私〉の世界が美しく在ることを願うからということが何となく理解できる。(僕にとっての)〈私〉にはテツの幸福や利益など知ったことではない。ただただ〈私〉の世界を美しくするために、善くするためだけに行動するということ。理解とか納得とかを考慮しないとしても、この姿勢、この哲学は僕の中に容易く溶け込んでいく。2019/10/03
なさぎ
2
タイトルへの答えを求めて読んだけど、肝心のそのズバリが載っているということはなかった。逆に言えば、これだけの文殊の知恵が考えてなお結論の一端も掴みがたい、というところに、一つの安心を覚える。冒頭にも書いてあるとおり、論者間での「ずれ」それ自体を体感する事に、この本、あるいは道徳というもの自体の妙があると思う。——個人的には永井氏の見解というか、その筆先に心打たれるものがあった。ニーチェの「血で書け」のごとく、表面上の論理を超えた部分での、言葉の力というものを感じる。2022/06/23
shi 2
2
論集、というより論争集?本書によれば道徳は良い/悪い(好悪)でなく善/悪の規律、理由である。しかし、行為主体である『私』を軸に置いた場合、倫理道徳は実際のところ『利己的なもの』として現出される(?)、ただし自-他関係における倫理道徳の判断軸を自己への『実害のある/なし』に置くと、それは無限にエゴ的なものとして拡大していく。自-他関係のモラルは中立的であるべきだが、倫理道徳とは損得勘定での妥協点なのか?感情と切り離すのか?そもそも普遍化できるのか?わからない2021/11/11
てぬてぬ
2
水掛け論にもほどがあるのでは……。2016/12/09
オフィス派の宇宙図
2
論争のズレ具合が面白い。一番すごいと思ったのは永井さん(〈私〉とは永井均であることとは関係ないため、〈私〉の行動は永井均の利益のためではなくただ〈私〉の世界を美しくするために行われる)のだけど、一番共感したのは大庭さん(道徳は自分が自分であることの基礎条件のため『自分の利益』に先んじる)かな。2014/08/26