- ホーム
- > 和書
- > 文芸
- > 海外文学
- > その他ヨーロッパ文学
内容説明
メダリオン―「縁取られた円形の肖像」をさす言葉を題に掲げたこの短編集は、第二次大戦中のポーランドにおける、平凡な市民たちの肖像をとらえる。ユダヤ系も含むポーランド市民たちの、ナチス・ドイツ占領下にくぐりぬけた経験をめぐる証言文学。
著者等紹介
ナウコフスカ,ゾフィア[ナウコフスカ,ゾフィア] [Nalkowska,Zofia]
1884年、ワルシャワで生まれる。知識人の集う文化的環境で育ち、早くから文学に親しむ。1906年に小説『女たち』を刊行して本格的に作家デビュー。両大戦間期はポーランド文学協会の唯一の女性会員であり、戦後にかけて文壇の中心的存在だった。1945年、ポーランドにおけるナチス犯罪調査委員会に参加、戦後は国会議員を務めるなど公人として活動する一方、社会主義リアリズムが公の文学様式とされた状況下では自由な創作は憚られ、戦前の作品の発表も制限された。1954年、逝去
加藤有子[カトウアリコ]
1975年、秋田県生まれ。東京大学文学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。現在、名古屋外国語大学外国語学部准教授。専門はポーランド文学・文化、表象文化論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
りー
35
東欧の想像力?いやいやこれほぼ史実じゃないかと思いかけてその皮肉に愕然とする。ここに描かれているのは戦時下に於ける人間の想像力の発露に他ならないんだもの。目の前に広がるどの道を選んでも死にしか向かえない状況というのはそれこそ想像を絶するけれど、考えてみればどんな時代、環境に生きていようが僕ら人間の選択なんてのは死の他に向かう処なんてないし、そのことに恐怖を抱かず暮らせるこの状況が平和や幸せと呼ぶべきものなのだろう。それでもいずれ訪れるであろう死の苦しみを思うと暗澹たる気持ちにならざるを得ないのだけれど。2016/02/29
くさてる
19
「人間が人間にこの運命を用意した」。1946年に刊行されたポーランド市民の経験を巡る証言文学。これまでにそれなりの数のホロコースト文学を読んできたけれど、この薄い本に収められた8つの短編はこれまでになく重い。描かれている光景が凄惨極まりなく生々しいというだけでなく、そこにある絶望と恐ろしさがどうしようもなく白々と胸に迫ってくるからだ。文章はとても端正で美しい。すごいです。2020/03/21
きゅー
17
著者ゾフィアは戦後、ナチス犯罪調査委員会に加わって証言者に接することとなった。そこで得られた虐殺の記憶が短編集として発表され、それらをまとめた本作が刊行された。冒頭に「人間が人間にこの運命を用意した。」とある。この印象的なフレーズは本作を読み終える直前にも登場するが、その言葉が途方もなく重くのしかかってくる。例えばガス殺による死体処理を命じられた男の話。トラックから放り出された死体のなかに、自分の妻と幼い子どもを見つけた男は自分を殺してくれとドイツ人に懇願する。2017/03/15
五月雨みどり
14
第二次大戦下における,ユダヤ人も含むポーランド市民の経験をめぐる証言文学。8つの短編で計88頁,その中の1節「燃やされた人骨は肥料に,脂肪は石鹸,皮膚は皮革製品に,頭髪はマットレスに使われた」。訳者解説19頁,その中の1節「ソ連占領地区では(中略)一般市民も大量にシベリアや中央アジアに送られ,多くが死亡した」「ナチス・ドイツはポーランド人の文化的なアイデンティティを奪うため,中等学校以上を閉鎖した。さらに,(中略)学者や知識人を逮捕し,収容所に送り,多くがそこで殺された」-人間が人間にこの運命を用意した-2021/01/24
みみみんみみすてぃ
13
「チェルノブイリの奇跡」などでノーベル文学賞を取ったスベトラーナ・アレクシェービッチや、同じくノーベル賞作家のヘルタ・ミュラーなどの作品が想起された。ホロコーストなどを扱った、短い小説である。淡々とした筆致の中に、おそろしいほどの狂気が潜んでいる。最初から、おぞましい内容で、人間とはここまで狂うものなのか、と息をついた。2016/09/17