内容説明
授業で知った「トラウマ」という言葉に心を奪われ、「今の自分に足りないものはこれだ」と思い込んだ平凡な高校生・優は、「トラウマづくり」のために、まだ死んでもいない同級生の墓をつくった。ある日、その同級生まゆみは彼の前に現れ、あらぬ記憶を口走ったばかりか恋人宣言してしまう―。「かっこ悪い青春」を描ききった筆者のデビュー長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
相田うえお
161
★★★☆☆17073 重松清さんのデビュー作。「〜のお」「〜じゃろ」「〜けん」という方言と広島カープ!舞台はそのあたりです。高校生男子が主人公の青春小説で、心を患って学校をやめてしまった少し危なげな女子と主人公との感情の揺れ具合が非常に興味深く描かれている作品でした。心を患った彼女は、嫌な記憶を自らの心で嘘の記憶に作り変え、それが嘘だと気付くことに心が拒否していたのですが、主人公や友人と過ごすうちに少しづつ自分の記憶の嘘を認めようとしていくのです。が、幼馴染みの女友達も絡んでラストがこうなるとは。。。2017/07/31
いこ
89
1980年広島県呉市。主人公は、平凡な(ちょっとワルイ?)高3男子たち。田舎の高校の運動部所属の男子たちが、運動部ゆえ「受験戦争」に乗り遅れ、悩み・葛藤する様が、苦しい位リアルに描かれる。その様子は、「RC愛」「広島カープ愛」「ハンバーガー・ショップ愛」などと絡めつつ、広島弁で語られていく。特に、語り手の「優」は、精神を病んでしまった女子に「自分の彼氏」との妄想を抱かれ、幼馴染みの女子との間で四苦八苦。青すぎる男子たちが、最後にはそれぞれに自分の道を見つけ、旅立っていく。男子高校生たちのひりひり成長物語。2022/03/23
ともくん
61
重松清、デビュー作。 やはり、重松清は最初から重松清であった。 子供でも大人でもない、微妙な心情を描くのが上手い。 荒削りな部分はあるが、後の重松清の原型が刻まれている。2020/03/20
さら
40
重松さんのデビュー作。重松さんの青春が散りばめられた作品なのだろうと思います。トラウマに憧れるというのは共感しかねますが、一途に思いこむ、憧れるというのも若さの象徴かもしれませんね。 紀子がこれからの長い人生を、きちんと生きていけることを願います。2016/02/08
しろくま
39
重松清のデビュー作である本書。なる程、思春期の葛藤や人間関係、心理描写はザ・重松という感じ。正に重松にとってのビフォア・ランが本書なのだろう。相手を、そして自分を大切にできるなら、優しい嘘を吐いても良いよと言われている気がした。紀子が背負ったものは大きいが、生きてさえいれば立ち直れる日が来る。彼女にとっては、今は"嘘"に思えても、嘘の世界をホントに変えられるよう、生きていて欲しいと思った。2020/08/06