内容説明
最大のラテン詩人が、英雄とローマ建国の物語を歌いながら、「歴史の運命」を示唆する壮大な叙事詩。
著者等紹介
岡道男[オカミチオ]
1931年大阪市生まれ。1957年京都大学大学院文学研究科修士課程修了。1994年京都大学助教授、教授を経て姫路独協大学教授。2000年3月逝去。主な著訳書に『ホメロスにおける伝統の継承と創造』(創文社)、『ギリシア悲劇とラテン文学』(岩波書店)、『キケロー選集8』(岩波書店)
高橋宏幸[タカハシヒロユキ]
京都大学大学院文学研究科助教授。1956年千葉県生まれ。1984年京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。1995年京都工芸繊維大学講師、助教授を経て現職。主な著訳書に『ラテン文学を学ぶ人のために』(共著、世界思想社)、『オウィディウス 祭暦』(国文社)、『セネカ 悲劇集1』(共訳、京都大学学術出版会)
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感想・レビュー
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兎乃
36
古代ローマの詩人ウェルギリウスが綴る『アエネーイス』。ゲーテと並ぶ詩人シラーも翻訳した作品で、ギリシア文化熱が高まる当時のドイツで ラテン文学を手がけるのは珍しい事だと知り、読みたいと思っていた。岩波文庫の翻訳が肌にあわず一度は挫折、本書でやっと読めた。とにかく厚い重いを払拭する 美しい言葉と丁寧な注釈&解説。アウグストゥスの治世を主人公に仮託し褒め称えるのだから、著者の意思とはいえコレは焼けませんね。シラーも翻訳に苦労しており、日本語訳は相当難しいのだと思う。物語は面白く楽しめ、美しい言葉に酔えます。2013/03/07
くみ
14
【第168回海外作品読書会】須賀敦子「本に読まれて」の書評より。古代ギリシアのトロイア戦争に敗れたトロイア軍のその後のお話。神話と歴史の融合が自然で、当時のこの地域の人々の感性や意識が詰まってるように感じました。ギリシア神は感情の起伏も激しいし、えこひいきもする。そして身近です。アエネーイスも英雄とはいえ女性問題で失敗したり完全・完璧でない側面に親近感も湧きます。正直全てを理解したとは言い切れませんが、歌うような情景描写や流れるようなストーリー展開 を楽しませてもらえました。2020/11/15
viola
9
ずっと読みたいと思っていたウェルギリウス。この西洋古典叢書はとてもいいものが多いのですが(訳も読みやすいし、注釈も豊富で同ページにあるから読みやすい)重くて厚くて、読むのが大変(苦笑)よくシェイクスピアにも出てくる、アイネアスとカルタゴの女王ダイドーとのラブ・ロマンスはちょこっとで、むしろトゥルヌスとの戦いがメイン。ローマ建国の祖ってアエネアスだったり、ローマという名の由来になったと言われるロムルスだったり、一体どうなってるんだと思っていましたが、解説を読んで納得。ようやくすっきりできた気がします。2012/07/23
roughfractus02
8
本書は『イーリアス』的な放浪と『オデュッセイア』的な戦争の中に、ホメーロス描く人物達に対応する登場人物達を配して、物語構造を正確に繰り返すかに見える。一方、トロイア出身の主人公がイタリアに渡る物語世界を見ると、ローマの礎を成すアルバ・ロンガの建設と後に隆盛する帝国が時折予言され、物語の過去がローマの現在に陸続きの設定となっている。記述言語がギリシャ語からラテン語に変わるより重要なのは、建国者ロムルスとレムス以前にギリシャ的な主人公がその地に赴き、ローマをギリシャの正統として据え直そうとする点にあるようだ。2022/06/06
tieckP(ティークP)
4
ホメロスの作品の後継として成立させつつ、同時代的な偉い人へのおべんちゃらとしても評価を受けようと欲張った感じがあって、両立しただけすごいけれど、その分ホメロスの伸びやかさには欠けている。神たちも、ギリシャの作品は自分の意志で生きているけど、「アエネーイス」では作者の都合に合わせて振る舞っている。人名が並ぶところも、ホメロスは大風呂敷を広げているような豪快さがあるのに、こちらは系譜学に忠実であろうとすることに汲々としている。とはいえ、口述の作品にはない比喩の豊穣さは、それだけで画期をなしたと言えるだろう。2013/12/07