内容説明
爛熟期のローマから一転、流謫の身となった天性の詩人が、自らを語る書簡詩。本邦初訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
8
変容するのは感情であり、変容させるのは運である。そして運は万物流転する世界と人間との関係の現れなのだろう。アウグストゥスの怒りを買い、黒海のほとりトミスに追放された著者は、その原因を語らず、嘆きと悲しみを歌い、書簡体で、自らの苦境を伝え、許しを乞う歌を記す。アウグストゥスへ、妻へ、友へ、そしてバッカスへ宛てた歌は、権力に翻弄され、運に見捨てられた自己が、希望と絶望、郷愁の強い感情に呑み込まれていることを存分に伝える。現地の気候、身体の健康、日々の生活も淡々と描かれることもあるが、「傷」が癒えることはない。2022/06/16
viola
4
やっぱり好きだな、オウィディウス。アウグストゥスによりトミスに流されてしまった悲しみの詩。嘆いて、嘆いて、ローマに戻りたいと懇願し、トミスの人々は好きなんだけれどもその地は好きにはなれないと更に嘆く。そして結局その地に骨を埋めることに・・・。書いてあることはとにかく嘆きなのであまりバリエーションもないのですが、それでもとにかく美しい。そもそも流刑となった原因は、どう考えても『アルス・アマトリア』(恋愛指南)だけではなく、その理由は何なのかを探りながら読むのも面白いです。結局分からないのですけれど。2012/08/03
きゅー
3
今回は「悲しみの歌」のみ読んだ。追放処分がくだされた直後から始まり、危険極まりない土地で数年間暮らす姿が記されている。読みつつ思い浮かぶのは、この詩は何のために書かれたのだろうという疑問。内容は自分の境遇の惨めさを切々と語ることに拘泥する。皇帝への減刑の嘆願があまりに繰り返されるのでくどく感じる。むしろ嘆願としてはマイナスではと思わされてならない。もしかしたら彼は、追放されながらも詩人として自らの作品を生み出す喜びを(しかもそれが自分の不幸によってもたらされた主題であったとしても)感じていたのだろうか。2012/12/18
たかみりん
1
オウィディウスがアウグストゥスの怒りをかって黒海沿岸の街トミスに追放された後に書かれた本。内容は一言で言えば嘆願の書で、皇帝の怒りが解けるようにお願いして欲しいと、妻や友人宛ての書簡詩という形で繰り返し訴えている。故に古来から「媚び諂いの書」だとか「単調な繰り返しでつまらない」と酷評されてきた。けれどそう訴えざるを得ない状況や、訴える先の多彩な人間関係などから、当時の人の感情や生活の様子が生き生きと浮かび上がってきて大変興味深い。そして追放の原因になった罪とは何か…具体的に書いていないだけに余計気になる。2012/11/22