内容説明
発生から40年余、未だ解決されない日本最大の食品被害。この事件は、どうして起こり、どんな経緯をたどったのか。当初から弁護団の一員として被害者と共に救済を求めてきた著者が18年に及ぶ裁判の意味を問い、今なお残る課題を明らかにする。
目次
事件発生(正体不明の奇病;明らかになる被害状況 ほか)
法廷闘争(裁判の中で明らかになったこと;被害の実態と多様性 ほか)
全面勝利(福岡民事訴訟の判決;判決前夜 ほか)
暗転(再びの和解勧告と新たな提訴;高まる全面解決への期待 ほか)
救済への道(仮払金の問題;認定基準見直しへ ほか)
資料(全国民事訴訟第一陣第一審最終準備書面(要旨)
福岡民事訴訟第一審判決(要旨) ほか)
著者等紹介
吉野高幸[ヨシノタカユキ]
1943年佐賀県唐津市生まれ。九州大学卒業後、カネミ油症事件が起きた1968年に弁護士登録、1970年のカネミ油症事件弁護団結成時に参加し、1977年から弁護団事務所長を務める。カネミ油症事件のほか、医療機関の役員として病院経営の再建にも取り組んできた。現在、北九州第一法律事務所所属。福岡市在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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更紗蝦
31
カネミ油症事件が人体被害として表面化する前に、「ダーク油事件」という鶏の奇病が発生しており、この段階で「ダーク油と同一行程で製造されている食用油も危険」と推測し、農林省なり厚生省なりできちんと対応していれば、被害の拡大は防げた…との指摘が衝撃的で、水俣病を「食中毒」として対応していれば被害の拡大は防げたという津田敏秀氏の主張を思い出さずにはいられませんでした。著者が弁護士なだけあり、裁判の経緯は詳細に記されているのですが、ダイオキシンに関する部分でセベソ事故について触れていないのが残念でした。2020/07/17
tellme0112
2
まだ解決していない、というのがまず不思議で手に取った。油症によりまっ黒な赤ちゃんが生まれてきた母親の証言が悲痛。「どんな子どもでもいいから生まれてきてほしい」と願ながら…。「赤ちゃん私に下さい」とパパ弁護士に迫る被害者。子どもは無条件の願いなだのだなとも思った。今は、経済力、心身の体力、将来に対する不安、家族の事情、雇用の不安、様々な理由で断念するのが当たり前の日本。自分も含め女たちが昔と違ってヘタレだからという罪悪感があったが、本来、子ども欲しいと思う人を、躊躇させてしまう社会が残酷なのだとも思えた。2013/06/17
tellme0112
1
読んだ。カネミ油症の闘いは裁判で全面勝訴した後覆され、会社と国の責任をという当初の目的はなされないまま和解となり、その後ダイオキシン問題でまた動き出すというのがすごかった。食べてから三十年たっても体から出て行かない。子や孫に引き継がれる。カネミ油症の闘いは、次の公害を引き起こさないためだという言葉が印象的だった。大企業の利益優先にしてしまうと公害が繰り返される、とあり、TPP参加してしまえば、こういうことが増えるだろうなと怖くなった。原発事故の訴訟についても思った。2013/06/18