出版社内容情報
7月に逝去した哲学者の絶筆を収録! 稀代の“不良少年”哲学者の核心にあった「弟」性を如実に示す姉・鶴見和子への率直な感謝と思慕、高野長英、安場保和、後藤新平、鶴見祐輔という自らの系譜へのアンビバレンスを超えた清澄な視線、そして、岡部伊都子、石牟礼道子、金時鐘、小田実、吉川幸次郎ら、戦後を共に生きた友人・先人への思いを綴る、珠玉の文章を集成。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬弐仟縁
27
生前の著者を彷彿とさせる語り口再現。懐かしい。今の教育がさらに進んでゆくと、日本人は、進歩に進歩を重ねて、日本の伝統から切りはなされてゆく(21頁)。日本の大学は、明治国家のつくった大学で、国家の造った大学として、国家の方針の変化に弱い。明治国家成立以前の慣習から汲み上げるところがないと、自分らしい思想が強く根を張ることはむずかしい(23頁)。文化はどれも移民の言葉(58頁~)。こちらに連れられたり、こちらに連れられたり、そこで生きているわけで。実際移民の文化以外に人間は持っていないんですよ(59頁)。2016/03/09
Melody_Nelson
7
鶴見氏のルーツについて以前から興味を持っている。鶴見氏は、お爺様の後藤新平は評価していたが、お父様の鶴見祐輔はちょっと批判しているのを読んだことがある。本書では、後半にこうした家族のことについて語られた文章が出ているが、いずれも短く物足りない。特にお姉様の鶴見和子に関する文章はとても良かったし、最後に載っていた和子さんが書いた文章も素晴らしかった。お母様についての印象が弟とまるで異なっているのも興味深い。2022/08/10
勝浩1958
5
「国家が社会の前からあるという想定が、大学を頂点とした明治初期以来の日本の教育体系をつらぬいて今日に及ぶ。おたまじゃくしにも、社会はある。どうして、はじめから国家があり、社会の前におかれるのか?」日本の官僚諸君、耳の穴をかっぽじって拝聴したまえ!2021/08/14
hasegawa noboru
5
追悼出版。リアルタイムでこの人の言説が読めないというのが、寂しいことだ。祖父後藤新平、父祐輔、姉和子とか近親の者たちについて2000年代書いたものを多く集める。イデオロギーなんぞで人は動くものか、東大を作り一番主義でやって来た、たかだかここ100年の近代国家ニッポンのものでしかないだろう。石牟礼道子はその近代を遙かに超えた民衆の言葉と感情を体現する古代人なのだ。金時鐘との対談では〈いまの日本の思想というのは「何とかして隣の人より得ができますように」だ〉と言葉を添えるナンシー関の消しゴム版画を褒めまくる。2015/12/13
のうみそしる
2
「抒情が批評である」感情がすぐに精神主義になってしまう日本で、抒情だけで力強い社会批評・批判になること、?わからん。後藤新平にはイデオロギーがなかった。なるほど。無節操に見えて豪胆。2021/09/18