- ホーム
- > 和書
- > 文芸
- > 海外文学
- > その他ヨーロッパ文学
内容説明
『白ひげの男』を二日に一度、三〇年以上も美術史博物館にやってきては鑑賞する音楽批評家、レーガー。その男が明日もまたここで会おうと作家アッツバッハーに提案した。監視員イルジーグラーをあわせた三人の語りは、現在に複数の過去が呼び込まれ、時間軸が輻輳する。作家、ベルンハルトの真骨頂。
著者等紹介
ベルンハルト,トーマス[ベルンハルト,トーマス][Bernhard,Thomas]
1931‐1989年。オーストリアを代表する作家・劇作家
山本浩司[ヤマモトヒロシ]
1965年生まれ。早稲田大学文学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
三柴ゆよし
21
一冊の本のなかによくぞここまでというほどの悪罵を詰め込んでいて、ああ私はいまベルンハルトを読んでいるなあ、となる。全方位に向けて吐き出される呪詛の言葉は突き抜けたユーモアすら湛えており、すがすがしくも感動的だ。それはそうとベルンハルトの文体はやはり大好き。文法の構造を微妙にずらしつつ反復される間接話法の乱れ撃ちは、はじめのうちこそ戸惑うが、読みつづけていると次第にその音楽的法則が輪郭を持ちはじめ、虜になる。これぞ声に出して読みたい文章であり、ある箇所は現にそうして読んだ。黙読するより楽しかった。朗読推奨。2018/05/23
ふるい
14
国家、芸術、人類などなどに向けられた怒涛のような呪詛。芸術は目を背けたくなる醜悪な現実からの逃避でしかない。しかしながらたとえクソのような世界であれ、われわれは生きねばならないのである。悲劇へと至る喜劇を。あっけなさすぎるオチ(?)には笑ってしまう。ベルンハルト好きだー。2018/10/22
garth
7
政府が品位のかけらももたず、完全にいかれていて、偽善的な嘘つきであり、加えてさらに底抜けのバカであるような国で、もうずっと本当にどうするすべもなく生きつづけねばならないでいるせいで、僕たちの頭は日々こんなにおかしくなっていくんだ。日々、物を考えるたびに感じさせられるのは、僕たちが偽善的で嘘つきで品位のかけらもない政府に牛耳られているということばかりで、この政府はそのうえ想像しうるかぎりもっとも低能な政府だときている2011/01/22
qoop
5
怨嗟の文学。300ページ改行なしで繰り出されるあからさまな愚痴と罵倒のオンパレード。著者の孤独な呪詛は常識の陰に隠れた廃頽を暴いて撃つ。高尚な芸術も市政の不備も区別なく、インテリの理想も大衆の不満も一緒くたにして。芸術や思想や社会運動は、厭世家にとっての逃避先でしかない…のかもしれない。沈鬱で歪んだ恨み節に反して軽妙で狂躁的な文章のリズムに巻き込まれて嗤う読者も例外でなく引きずり倒され、閉塞状況で理想の実現を問い詰められ、遂には叩き潰される。確かに喜劇だが、読者は嗤うのか、それとも嗤われるのか。2017/02/04
呑芙庵
4
キッチュな終わり方をしなさる 徹底している 大傑作 古典絵画の巨匠たち、肖像画はみんなこちらを向いていて、顔ばかり、後ろ半分はないのだが、こちらを向いているくせに、総てはなにもわたしを世界と結びつけはしない2018/12/20