出版社内容情報
大国ロシア相手に和親条約締結を成し遂げた幕末の敏腕外交官・川路聖謨――その知られざる奈良奉行時代を直木賞作家が描く
大国ロシア相手に和親条約締結を成し遂げた幕末の敏腕外交官・川路聖謨(としあきら)――その知られざる奈良奉行時代を直木賞作家が描く
明治元年三月十五日
――江戸城総攻撃の日 前日の勝・西郷会談での攻撃回避決定を知らなかった川路聖謨は切腹の上ピストル自殺した――
その時の彼の眼に映ったものは 奉行として初めて目にした古都奈良の桜ではなかったか……
世相がすさみ町も寺も荒れていた奈良を建て直した人間味あふれる川路 中でも特筆すべきは庶民も巻き込んだ桜楓の植樹活動である
その時植えられた桜は 百六十年たった今も 奉行所の裏を流れる佐保川の堤で美しい花を咲かせている
出久根達郎[デクネタツロウ]
出久根達郎(でくね・たつろう)
1944年、茨城県生まれ。作家。古書店主。中学卒業後、上京し古書店に勤め、73年より古書店「芳雅堂」(現在は閉店)を営むかたわら執筆活動を行う。92年『本のお口よごしですが』で講談社エッセイ賞、翌年『佃島ふたり書房』で直木賞、2015年『短編集 半分コ』で、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。著書は他に、『古本綺譚』『作家の値段』『七つの顔の漱石』『おんな飛脚人』『謎の女 幽蘭』『人生案内』『本があって猫がいる』など多数。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
98
この本は久しぶりに読んだ出久根さんの本です。大きな文字で年寄りにとってはありがたい気がします。川路聖謨という幕末に勘定奉行や外国奉行であった人物です。この人物については教科書に出てくるくらいしか知らなかったのですが、奈良奉行という役職を果たした頃の彼の日常を彼の資料をもとに出久根さんが料理してくれています。まだ続きがあるらしいので楽しみにしています。2018/05/10
レアル
56
川路聖謨が奈良奉行時代だった時の物語。奈良市の佐保川沿い咲く桜。この桜と川路聖謨の物語だと思い込み、いつになったらそのお話が出てくるのかとワクワクしながら読んだが結局そのお話もなく終わってしまった。あとがきで少し触れていた程度で少し残念だったという思いはあったが、こちら川路聖謨の日記「寧府紀事」を元に描かれた作品で、幕末当時の奈良の様子と聖謨の奉行ぶりを知る貴重な史料を読んだという満足感に浸れた1冊だった。奈良の言葉で「まほろば」ではなく「まほらば」という響きも良い。「植桜楓ノ碑」次はこれを見に行く。2017/12/04
baba
42
名前しか知らなかった川路聖謨が、幕末の優秀な官僚であり、奈良奉行として多々の功績を残したようすが実母に送った日記に基づいて描かれている。明るい人柄で実母や養父母、妻子への思いやりに温かくなる。高野長英や渡辺崋山との交流、蛮社の獄という過酷な時代に、佐渡奉行として貧しい人々の苦しさを思いやる姿が伝わる。官僚というイメージと違い町人になって町に出かけハラハラする場面もあるが奈良を理解し、溶け込もうと苦慮する姿が良い。2017/04/04
松風
24
出久根達郎一流の史料を駆使した時代小説。外国奉行以前の川路も興味深い。2017/01/10
ソババッケ
20
久しぶりの楽しい本。幕末の官僚・川路聖謨(としあきら)の奈良奉行時代を描く。足かけ6年の奈良時代、江戸に残した実母宛てに、近況報告代りに送った日記(寧府紀事)がもとになっている。赴任から6ケ月余を扱っており、母親を楽しませようとてか(どこまでがフィクションかわからない)面白い話が続く。配下の役人や奈良の町民が奉行の行動をどのように見るかを常に意識している点も興味深い。白洲での放屁癖があったようで、奈良(おなら)奉行を笑った狂歌には吹き出してしまった。ネタはまだ5年余分ある是非とも続編を期待したい。★3.82017/01/21