感想・レビュー
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松本直哉
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冥福を祈るな、と詩人は言う。冤鬼となって国をあふれよ、と。トマトのように圧し潰された死、裂かれた腹、抉られた喉の無念を弔ってどこかに片付けてやがて忘れる自己欺瞞への反撥。死してなお恨む死者たちを代弁するかのような厳しく激しい言葉。故郷の光州を襲う悲劇を異郷の日本で聞く焦燥と怒りは隔てられた空間を超えて不条理の死者と一体化し、時間によって融解されることを拒む。「平穏さだけが秩序であるのなら/秩序はもはや萎縮でしかない」秩序へと回収されることない石つぶてのような言葉の断片。2016/12/15