内容説明
尊皇攘夷の旗の下、幕府の開国政策に無謀な異議を唱え、孝明天皇の毒殺をはじめとする奸策と狡知によって、倒幕・権力詐取に成功したのが、薩長の奸賊集団であった。幕末維新史の実相を、史実に即して、大胆にしてかつ独自の視点から「正観」した明治維新論。類まれなる名著の翻刻版である。
目次
第1編(明治維新の俗称;天皇孝明と将軍家茂との協調 ほか)
第2編(安政条約の法理と従来の謬見;幕府の遣米使節と米国の歓迎 ほか)
第3編(幕末の難局打開の三方策と三人物;江戸城降伏とその前後 ほか)
第4編(王政の復古と皇権の喪失;天皇の権力剥落のいきさつ)
著者等紹介
蜷川新[ニナガワアラタ]
東京に育ち、東大法学部卒業、続いて大学院に学び、国際法専攻、大正元年に学位を授けられた。歴史は専門ではない。私立大学の教授は、国際法及び憲法を受け持ち、永年勤めたけれども、それが専業ではない。下級官吏、新聞記者、嘱託、従軍、赤十字顧問、会社重役、外国出張、全国遊説、著書など、いろいろなことをやって来た。朝鮮、満洲、樺太にもいたが、その間の任務は、国際法、外交、拓殖及び経済の事業であって、それに、十年を費している。公務であった
礫川全次[コイシカワゼンジ]
1949年生まれ。在野史家。歴史民俗学研究会代表(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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roatsu
11
大変価値ある復刊であり、幕末史のスタンダードとなるべき見解が示されたまさに正観。毅然たる破邪顕正の視点で、薩長下級武士とこれと組んだ下級公家が欧米列強の殺到という国難につけこんで出鱈目の復古主義を掲げてこれを煽り、武力政変によって政権を幕府から自らの手に不法に簒奪した暴挙の醜悪な実態を検証して厳しく告発しており、原田伊織氏の著作の如く目からうろこが落ちる内容と思う。昭和27年当時、定説化していた旧秩序の闇にこれ程鋭く迫った方が居たとは。今も支配的な、悪質な信仰の如き明治維新称揚は何なのかと考えさせられる。2016/10/07
ネコ虎
6
幕末維新薩長史観批判が近頃盛んになっているが、この著はその嚆矢というべきか。徳川幕府を薩長・公卿らの謀略と暴力行為によって打ち倒したことが告発されている。将軍家茂、孝明天皇の死も暗殺とはっきり書かれている。徳川が大政奉還した後も、優秀なる幕府政治家により公武合体路線を行えば薩長政権の愚は犯さなかったと。岩倉、西郷、大久保ほかの非道、慶喜の愚、勝海舟らの裏切りを責めている。これもひとつの歴史修正主義といえようか。著者は小栗上野介の親戚であり、幕末最高の人物と評価。それ故薩長は無理やり死に追いやったと。 2017/10/29
マウンテンゴリラ
1
このような明治維新以降の歴史に対する、過激ともとれる批判書が、おそらく日本の戦後思想が確立される以前に出ていたとは、まったく知らなかった。逆説的に言えば、その著者による史観とは真逆ともいえる評価が、大日本帝国時代はおろか、戦後教育においても当たり前のように為されてきたということが、むしろ不思議なほどである。かく言う私自身も、ある程度自主的に歴史に関する書物を読み始める以前の二十歳前後までは、明治維新=文明開化、そしてそれ以降の時代が、日本の発展の時代という漠然とした歴史観を持っていた。→(2) 2023/03/27