出版社内容情報
1970年代に展開された「開放化運動」とはいったい何であったのか、そして「開放化運動」は何を残し、その後の精神科医療の変革とどうつながったのか? 今あらためて精神科病院の果たすべき役割と病院医療のあり方をめぐる検討が要請されている。本号は、さる2003年10月11日に都市センターで開かれたワークショップ『開放化運動を超えて―病院から地域への移行をめざして』における報告を中心に編集された。けっして薔薇色とは言えないが、精神科病院の開放化から地域移行へといたるかすかな希望を見出し、過去30年の精神科病院改革運動と地域活動とを総括し、今後の展望を切り開こうという目論みである。
巻頭言
浅野弘毅(仙台市立病院神経精神科)
【対談】開放化運動を超えて
石川信義(精神科医)×森山公夫(陽和病院院長)
●開放化運動の思想と実践
浅野弘毅(仙台市立病院神経精神科)
●開放化運動のその後
渡辺瑞也(小高赤坂病院)
●陽和病院・開放化運動の経験から
服部正康(陽和病院)
●光愛病院の変化からみる〈開放〉への問いかけ
物江克男(光愛病院)
●精神病院から地域への移行をめざして―大阪からの報告
黒田研二(大阪府立大学社会福祉学部)
ひ新しい精神医療改革運動の行方―ワークショップのまとめに変えて
黒川洋治(南伊豆病院)
●「開放化運動をこえて」のワークショップに参加して
河野節子(生田病院)
■コラム/連載
●精神科医療の事件ファイル【連載……2】
朝倉病院事件が見せた精神医療の闇
小林信子(東京精神医療人権センター)
●ひきぬきにくい釘【連載……2】
蛇の治療
塚本千秋(岡山大学教育学部)
●老いのたわごと【連載……21】
分裂病が治るということ(1)
とくに老親の介護について
浜田 晋(浜田
「オリエンタリズム」のE.サイードが亡くなった。アメリカの地にあって、パレスティナの真実を語り続けた知的巨人の死は無念としか言いようがない。ブッシュ政権の目から見える世界は著しく倒錯している。イスラエルによる空爆という無差別テロがパレスティナの人々を絶望の淵に追いこんでいる。アフガニスタンはもう破壊するものがないというほど焦土化し、和平は遠い。そして、大義なきアメリカのイラク侵略は空爆による大勢の市民の犠牲、インフラの大量破壊による市民生活の窮乏化、局地戦の拡大などをもたらし、状況はいっそう混迷を深めている。既に9.11による犠牲者の数十倍の生命が失われ、大量破壊は貿易センタービルの比ではない。自衛隊のイラク派遣による死者には1億円の弔問金が支払われるという。そのようなことになれば犠牲者は英雄として祭り上げられ、派兵への露払いの役を担わされることになる。
一方、わが国においては、かつて“革新都政”が存在した地において、侵略戦争を肯定し、ヒットラーの如き民族・人種・障害者差別発言を繰り返す知事が圧倒的な人気を博している。11月の総選挙で社・共は凋落し、保守化した民主党が自民党の別働隊として登場してきた。共に「戦争なっている。メンタルヘルスも大きくはそのような流れの中で取り組まれなくてはならないと思う。アジアのメンタルヘルスは悲惨を極めているが、日本のシステムは見本にはならない。コミュニティ精神医療への転換を強力に推進することを通して、はじめて援助や協力が可能となる。萌芽的ではあるがそのような動きも生じ始めている。「精神医療」誌が更に脱皮して、新しいメンタルヘルスの構築に向けた強力な媒体になることを願っている。
03/12/10 黒川洋治
『精神医療』33号が刊行となりました。
精神医療編集委員会主催のワークショップでの報告を中心とした論文構成によって、「開放化運動」の意味を再考します。また、次号34号と合わせて、精神科病院改革運動の過去30年を総括します。