精神医療  4-30

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精神医療  4-30

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  • 商品コード 9784826503709
  • NDC分類 493.7
  • Cコード C3047

出版社内容情報

 本号は29号「人格障害のカルテ・理論編」を受け、実践編として編み出そうという試みである。現場からのリポートで占められるため、理論編に比べればかなり生々しい状況が語られるかもしれない。しかし、わたしたちは、もはや、これまで述べてきた実態を無視できない状況のただなかにいるのであり、そこを直視することなくして精神医療云々を語ることはできないという認識に立つべきなのである。たとえそれが、精神医療の範疇であろうがあるまいが、「できることがあるとすればそれは何なのか」と問うこと自体に意味があると考える。

「心神喪失者等医療観察法案」の衆議院通過に強く抗議する
「精神医療」編集委員会声明

巻頭言
人格障害と医療現場の隘路
阿保順子

座談会
人格障害と呼ばれる人びとの暮らしをめぐって
高木俊介(ウエノ診療所)
生村吾郎(いくむら医院)
冨川順子(光愛病院 看護部)
阿保順子(北海道医療大学)
[司会]犬飼直子

人格障害の治療とは
村上伸治、青木省三

人格障害雑感
岩田柳一

境界性人格障害という診断について
―臨床の中で考えること―
田中 究

ボーダーと呼ばれる人々を抱える看護チームの痛み
―その病理が病棟集団にもたらす問題性に焦点をあてて―
八木こずえ

傷だらけの原点ノート
―36冊の日記より―
小椋柊子
構成 塚本千秋

コラム
「寂しさ」について
増元康紀
(医療法人内海慈仁会 姫路北病院)

コラム
ときには、木々の光を浴びて
―兵庫県立淡路病院心理室の場合―
中谷恭子
(兵庫県立淡路病院・臨床心理士)

老いのたわごと 第18回
自殺について―(3) 
浜田 晋 127

往診 東奔西走記 第15回


 医療現場はいま、人間が病むという状況を支えなくてはならないもっとも基本的な前提である「安全」や「安心」が全く保障されない危険地帯と化している。そこに働く医療従事者もまた、疲弊しきり、しだいにその心に亀裂を生じさせている。その亀裂はあっという間に、病む人間を、そして医療従事者自身をも切り裂き、拡大していく。精神医療とて例外ではない。
 最近の精神医療現場は、統合失調症の患者さんが大半を占めていた時代と比べ、かなり様相が異なってきている。というのも、統合失調症の患者さんについては、入院や外来での治療看護、その後のフォローなどの行政的あるいは経済的課題を残しつつも、何を必要とするのかということはわかってきている。しかし、昨今の人格障害の問題は、それへの方法はおろか、医療単独で対応すべき問題なのかどうかさえ一定のコンセンサスを得られていない。いや、もっと言えば、医療や教育や福祉が関与すべき問題なのかどうかさえ疑わしいと言えるのかもしれない。「人格障害」という言葉が孕む意味の問題に関する議論を経ないまま、言葉だけが一人歩きしている観を呈している。精神分裂病という診断名を付された人々が辿ってきた長い歴史の中に在った言。医師が折れ、患者さんは病棟から姿を消していく。一件落着といった観を呈した頃、新たな蓑を着た人格障害の患者さんが登場してくる。この繰り返しである。その間、対応の力は確かについてはいくが、それは見通しをもてるような確としたものでもなければ、次のステップにつながるような稔りあるものでもない。まるで賽の河原なのである。結局、その果てに、人格障害は排除すべき存在と化していく。
 精神病への偏見は病院内で生まれる。人格障害とて例外ではない。だが、人格障害と呼ばれる人々によって引き起こされる医療者の感情は、精神病者に対するこれまでの感情とは質が異なるように思える。それは、これまで病者と医療者の間に確かに生まれていただろう、ある種の人間的惹かれあいとでも呼べるような事態が生じにくいことに起因する質の相違であるだろう。かかわろうとする気持ちの対極にある、距離をとったよそよそしさと、規則や枠組みという鎧をつけての虚しい格闘、それが人格障害と呼ばれる人々とかかわっている医療者の日常であるだろう。
 本特集は、29号「人格障害のカルテ・理論編」を受け、実践編として編み出そうという試みである。現場からのリポートで占められるため、理