ソフトランディングの科学―ゆっくり、時間を長く

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  • サイズ B6判/ページ数 206p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784822806149
  • NDC分類 519
  • Cコード C0040

出版社内容情報

もはや、30年先も生きていない私だけれど、50年、100年先を見通して生きていくつもりである。未来のいつかに、私につながる子孫がご先祖様の噂話をしたり、ひょっとして私の著作が見直されることがあるかもしれない。かれらによって「ちゃんと先を見通して予言していたね」と評価されれば、草葉の陰で私も満足である。そのように、「未来世代から見た私」という視点で物を言い続けたいと思っている。(「第6章 ゆっくり、時間を長く」より)

プロローグ

第一章 わが家の暮らし
    新築したわが家が及ぼした影響
      日曜日の床磨き・太陽光発電・柿渋を塗る
      バリアフリーの長短・井戸水・中水の利用・温水の利用
    わが家の暮らし
      電気製品・日常の品々・書籍
    その他のこと
      ゴミの処分・公共交通機関の利用・家計簿

第二章 恒環境動物となった人類
    動物のデザイン
      共通する法則・段階的な生物の進化と人類
    エコロジカル・フットプリント
    共有地の悲劇
    地球温暖化のフィンガープリント
    「疑わしきは罰する」原則

第三章 地下資源文明
    人類が経た「革命」
    「革命」の共通性
    地下資源文明
      上流は無限?・イースター島の教訓──上流は無限ではない
      下流も無限?・地球環境問題──下流も無限ではない
      パラドックス
    環境圧
      環境圧とは
    ハードランディングの悪夢

第四章 ソフトランディングのために
    循環の思想
エピローグ

 地球環境問題については、あちこちの講演でしゃべったり、短い文を雑誌に書いてきたりしたのだが、まとめて本にするのはこれが始めてである。だから一冊の本になるほどの系統立った材料があるかと心配したけれど、なんとかここまで辿り着くことができた。書き始めると意外にスムースに進めることができたのは、日頃からアレコレ考えていたことが溜まっていたためだろう。
 ところで、地球環境問題について声高に語ろうとすると、「オオカミ少年」であるかのように見られることがある(私はもう「少年」ではないが)。余分な恐怖を煽り立てて、安寧な生活に不安感をかき立てようとする不埒な人間というわけだ。あるいは、まだそれほど緊迫してはいないのに、なぜそんなに騒ぎ立てるのか、「心配し過ぎ、杞憂」だと揶揄されることもある。いずれ科学技術が発達して解決してくれるさ、と楽観的なのである。
 私自身、「オオカミ老人」のつもりではなく、天が落ちてくると「杞憂」しているわけでもない。今すぐに何事かの異変が起こるとは考えていないからだ。しかし、このまま何もしないで一〇年が経ち、アレコレ考えているだけで三〇年の時間が経ってしまうと、もはや取り返ような手を打っておくべきか、を一緒に考えてみたかったのである。
 といって、大げさなことを言っているのではない。じっくり地球の現状を観察し、現在の生き様を考え、どのような未来が待ち受けているかを考えれば、このままでもよいとは誰も思っていないはずである。どこかで変わらねばならないと思っているのだ。しかし、何をすべきかわからないのが本当のところだろう。個人でチマチマやっても何にもならない、政治が変わらなきゃどうしようもない、というわけだ。どこかに後ろめたさを抱えつつ、それを振り切って知らん顔して生きているのが私たち庶民なのである。
 
 そこで、そのような人びとにエールを送り、普段の生活を足下から見直し、自己満足であろうとやれるところからやってみようよ、と呼びかけるつもりで書いたのが本書である。肩肘を張らずに自然体で自分の内部にあるエネルギーを引き出し、安逸に慣れたスタイルから抜け出るきっかけになればと思ったのだ。
 第一章は、私が実践している省エネルギーの暮らしを紹介した。環境問題をむつかしく考えず、気楽に取り組もうよと呼びかけたつもりである。この程度なら私もできると受け取ってもらえたら言うことがない。も寄与でき、環境に優しい行為を積み重ねている、そんな心の内の自信が日々を健康に生きる糧となるからだ。自分の体を動かして生活の隅々まで点検することによって、怠慢になった肉体を鍛え直せるという効能もある(それほど大げさではないが)。さらに、未来への責任を考えるという、人類はじめての体験を先取りしている感覚も生まれる。まだ見ぬ子や孫のために植樹をした先人たちの心持ちを共有する気分で、何か嬉しい気持になるものである。もはや私はいなくても、その痕跡が生き残り、なにがしかの役に立っていると想像するのは楽しいからだ。
 そのような別の世界の自分を再発見するような動機であってもかまわないと思っている。人生に慣れてしまった自分から一歩違った方向へ踏み出せ、新鮮な自分を取り戻すことができるからだ。日常の「循環」を繰り返しながら、少しは「進化」もしていることを実感するのも悪くないだろう。宇宙や地球や生命が「循環」と「進化」の組み合わせで成立しているように、人生も「めぐり」ながら「すすむ」ことを味わえるというものである。この世はすべてラセン階段を登っていると譬えられるかもしれない。(このままで行けば、奈落に向かってラセン階段を降りたり、あまり無理をすると長続きしないよと自分を甘やかしてもいる。おそらくトコトン考え詰めれば原始生活に戻らねばならないことになってしまうだろう。それはとても耐えられそうにないし、現実的でもない。可能な範囲でやれることを見出しながら進み、時間が経ってみればこんなに沢山できるようになったと言えればいいのではないか。そう思うことにしている。
 そこでキーポイントとなるのは、人間がいったん手にした技術を有効に使いながら自然と調和することを考える、という課題だろう。技術礼賛主義で新たな技術を追っかけてばかりいると、人間は自然から解離した存在になってしまう。「もうこれ以上は結構」というRefuseの精神を養わねばならない。ハイテクばかりを待望するのではなく、ローテクで満足して体を使うことを知る必要もあるだろう。長持ちし修理の効くローテクが私たちの生活に似合っているのである。
 それと反対のことのようだが、環境と人間に調和した省エネルギーの製品とする技術の追求も忘れてはならない。小型化・分散化・多様化の技術をもっと推進し、「お任せ」ではなく自分で責任を持てるシステム作りを図るのである。大型化・集中化・一様化の技術に慣れ

 人類の未来に立ちふさがるハードランディングの道……。そうはなりたくない、と宇宙天文学者がソフトランディングへの道を書き綴る。
 宇宙のはじまりから、太陽光発電、自宅の床みがきまで縦横無尽に語る、大きなスケールの書き下ろしです。

目次

第1章 わが家の暮らし
第2章 恒環境動物となった人類
第3章 地下資源文明
第4章 ソフトランディングのために
第5章 私たちにできること
第6章 ゆっくり、時間を長く

著者等紹介

池内了[イケウチサトル]
1944年兵庫県生まれ。1972年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。早稲田大学国際教養学部教授。宇宙物理学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。