出版社内容情報
人間の記録 第104巻 石牟礼道子 「椿の海の記」
四六版 本体1,800円
ISBN4-8205-5764-5
石牟礼道子(1927~ )熊本県出身
作家。郷里・水俣に育ち、水俣病を取材し、数々の作品を発表。
『苦海浄土』で日本全国に衝撃を与えた。平成五年には『十六
夜橋』で紫式部賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mawaji
7
苦海浄土に至る前の水俣の自然と人々の営みが著者の子どもの頃の視点で描かれているのである。その頃はチッソの旧工場の赤レンガの残骸めいた塀の脇の溝に鮒や水すましが群れをなして泳いでいるのであった。昭和初期の天草の貧しい島の食べ物の描写は、今おもえばほんとうに多彩で豊富な海の幸であったことでしょう。学校帰りの小学生が川底の石についてさらさらと水に流れている青海苔を掬って弁当箱に押し詰めて持ち帰り、干したあと燠火の上であぶって生醤油を垂らして熱いご飯に乗せて食べる贅沢さ。民俗学的な資料価値もあるように思いました。2018/03/13
マウンテンゴリラ
3
著者の代表作である「苦海浄土」を読み、衝撃的とも言える感動をおぼえたのをきっかけに、著者に関する評論やエッセイに触れるなかで、是非本書は読んでみなければならないという思いに駆られた。単に水俣病を近代に取り残された人々の悲劇としてではなく、美しくも怪しい庶民のかけがえのない命と周辺環境を破壊した近代の象徴として描かれたということが、本書によって、より明確に理解できた。今なお、その近代的価値の象徴としての巨大企業が、多くの人々の価値の拠り所として活動していることへの虚しさを感じずにはおれなかった。→(2)2015/01/23