内容説明
公衆保健と実験医学は、19世紀に相次いで産声を上げた。数々の施策を経て国家医学から帝国医学へと至った前者と、進化論を組み込みながらイギリス独自の展開を遂げた後者。それらの全体像と相互の関係を初めて明らかにし、社会と医学の関係を問い直す力作。
目次
第1部 テムズ河―ロンドンの衛生改善(変容するロンドンの暮らし―病原菌説前夜の混沌;屎尿の利用と衛生施策)
第2部 漂う微生物の本性を追う(コンタギオンからジャームへ;病原菌理論の時代;ロンドン国際医学大会)
第3部 スエズ運河―帝国時代の医学(コレラとスエズ運河;病原菌と帝国)
著者等紹介
小川眞里子[オガワマリコ]
1978年東京大学大学院人文科学研究科博士課程退学。三重大学教授などを経て、三重大学名誉教授、博士(学術)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kaizen@名古屋de朝活読書会
38
流行り病病原菌との戦いは生体解剖動物実験 #短歌 動物実験 を批判する人は人間が実験対象となることも拒んでいるのだろうか。歴史を知って、現代の選択肢を考える一つのきっかけになると良いかも。2021/01/19
Mealla0v0
3
「河」に注目しながら「病原菌と国家」について切り込む著作。19Cのコレラ流行は単に衛生学的問題である以上に食糧問題との複合的な問題であり、下水と都市整備という課題を呼び寄せた。衛生学は細菌学の誕生に刺激されながら発達していくが、イギリスでは進化論との関係で発達しており、独仏とは微妙に異なる歩みを追った。そして、そのことは国際問題としてのスエズ運河の検疫に、ひとつの問題となって現れる。イギリスの衛生学・医学は国家との規定で定義づけられるが、同時に大英帝国の拡大によって、帝国医学という問題にも連なった。2020/11/02
サンチェス
1
博士論文を書籍化した、ガチガチの学術書。だけど、19世紀イギリスはじめ欧州がどのように病気と向き合ってきたかがわかる優良な本。構成は3本立て。テムズ河に下水を垂れ流した結果ロンドン市内が異臭に覆われる惨事とその対策について。イギリス国内の医学の発展が動物愛護団体の解剖実験反対によって停滞したことについて。インドからスエズ運河を通って欧州入りする船舶がコレラを運んでいると糾弾してスエズでの検疫を求める欧州各国と、面倒なことして物流が滞ることを恐れたイギリス双方が医学を国益のために利用したことについて。2016/04/11