内容説明
スイスの山村の道路に停まっていたベンツの運転席で男の射殺体が見つかった。男はベルン警察の警部補だった。老警部ベアラッハは部下とともに捜査に乗り出す。殺された警部補は、富豪ガストマンの邸で開かれていた要人パーティーの秘密を探るため、偽名を使って潜入捜査をしていた。捜査の眼はガストマンとその周辺へと向けられるが…20世紀スイスを代表する劇作家Fr.デュレンマットの処女作的推理小説。
著者等紹介
平尾浩三[ヒラオコウゾウ]
中世ドイツ文学・ドイツ語史専攻。東京大学教授、慶應義塾大学教授、日本橋学館大学教授等を歴任。現在:東京大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ドウ
7
デュレンマット初期のミステリ。警官が何者かに殺害された事件を、被害者の上司と同僚がどこか手際の悪い様子で追う。手際の悪さは喜劇だからというだけでなく、そこにデュレンマットにしては珍しく明確に伏線が敷かれており、訳者解説とは逆に、ミステリとしてきちんと成立している点を評価したい。国際謀略の絡め方や真犯人の追い詰め方にデュレンマットらしい倒錯した視点・発想が埋め込まれている。らしさとらしくなさが、誰でも楽しめるミステリとして絶妙なバランスの佳作。2020/04/04
きゅー
7
戯曲家として有名なデュレンマットの処女小説。犯人探しの推理小説でもあり、彼の終生のテーマともなっている運命、罪の償いといったモチーフが色濃くあらわれている。ただし本作においては、登場人物の魅力が乏しく、結末にいたってもあまりカタルシスは得られない。後の彼の作品に見られるような、逆説的だが罪人がその罪ゆえに止揚されるようなドラマもない。そしてまた、偶然の出来事が頻繁に起きていることも気になる。あまりに具合がよく物事が進み、一点の狂いもないというのは、やはり不自然だ。彼の戯曲が好きな分、物足りなさが残った。2012/06/23
飛鳥栄司@がんサバイバー
2
これは、すごくいい。終始霧の中なイメージと、老警部から発せられる哀愁とあきらめ。短くそして素っ気ないくらいな表現の中に凝縮された世界。こういう作品は埋もれさせずに、もっと読まれるべきだ。早川からも翻訳がでていたそうだ。自分は読むべくして読んだ。本作は読まれるべきして訳されている。お薦めの一冊だ。2012/06/28
tommyknocker
1
作品は悪くはないが(しかし物足りなさはある)、訳がちょっと……。2015/06/09
たまかなや
1
裏腹な構図から導き出される裏腹な解決。アイロニーの多重構造に、デュレンマットの本領を見る。2014/03/19