われの言葉は火と狂い

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われの言葉は火と狂い

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  • サイズ B6判/ページ数 277p/高さ 19X13cm
  • 商品コード 9784806756811
  • NDC分類 304
  • Cコード C0036

出版社内容情報

獄中から無罪を叫びつづけた彼女が「無罪」判決を得たのは、彼女が死んだあとだった……「徳島ラジオ商殺し」冤罪事件。30年をかけて無罪を闘い取った裁判闘争を克明にたどりながら、戦後日本社会の人権抑圧の構造をあざやかに浮かび上がらせる。  ■■■山田太一氏(シナリオ作家)=ドキドキしながら読んでいます。あの時代がなまなましく蘇って、とにかく面白いです。■■■黒田清氏(ジャーナリスト)=この本を手にした夜は朝がた近くまで眠れなかった。若い夢追い人よ、この本を読んでジャーナリズムの門を叩いてくれ。■■■樋口恵子氏(評論家)=当代一流のジャーナリスト斎藤さんが、時代の水先案内人として警鐘を鳴らしつづけた作品を通読すると、さながら被治者の側から見た戦後通史の観がある。■■■松本清張氏(作家)=その寝食を忘れた熱意と、精力的な追及心と、工匠を思わせるような取材技術とは、最近とかくマンネリ化したといわれる新聞・雑誌記者を奮起させるであろう。■■■  ★★★毎日新聞評=茂子さんを支えた著者をはじめとする人々の力の結集は、偽りの豊かさの中に生きる現代人に清らかな涙と感銘を与えずにはおかない。★★★朝日新聞評=ジャーナリストとして生きた著者の深いエートスが、詩的に、しかし剛直に表現されていて、心を打たれる。★★★三田評論(内海愛子氏)評(1991年1月号)=克明に取られた取材ノート、短い記事の裏につぎ込まれた情熱、社会的弱者への温かい眼差し、権力犯罪への怒り--時に応じて見せるジャーナリストのこころの動きが読みやすい文章の中から浮かび上がり、多くの時間を経過した今も読む者の心を打つ。すぐれたジャーナリストが、たぎるおもいで書き綴ったこれらの書を読み終えて、深いため息とともに自分の過去を振り返る人も多いだろう。★★★  ●●●本書「まえがき」より抜粋=「わたしは、絶対にやっとりませんツ」という冨士茂子さんのきっぱり言い切る声が、耳元を離れないように思われ、気がかりでならなかった。彼女の悲痛な訴えを知ってしまったことが、彼女から多額の借金でもしたように思われ、いつかその借りを返したいと念じつづけた。それだけに無罪判決は私自身の長い記者生活にひとつの決着をつける朗報であり、ようやく肩の荷を降ろした気分だった。そして同時に、取材を通して見たこと、感じたこと、考えさせられたことを一冊に集約して、この冤罪が私たちに告げているものを多くの人に報告しなくては……とまたしても借金を背負った気分になったのだった。これからその決算をしようというわけなのである。戦後の冤罪事件のなかでも、徳島ラジオ商殺し事件は、こんなにわかりやすい学習教材はないのではないかと思うくらいの、冤罪の典型のひとつである。しかも、すべて結論が出たいまになってみると、権力をもつ側の「つい判断を誤ってしまって……」といった程度の過失が原因だったのではなく、明白な証拠がないことを重々承知しながら、暴力的にという表現が当てはまる強引さで、まったく非力の女を犯人に仕立て上げた形跡が濃いという点で、特異なケースである。国家権力というものの恐ろしさ、それがいったん誤った方向に回転したときに、どんな悲劇が現出するか。それがまざまざと立体像として表現されているのがこの事件なのだ。ではなぜ冨士茂子さんは犯人にされてしまったのだろう。そのことはこの事件のもうひとつの意味を考えるうえで大切な視点である。彼女の生き方が、戦後まだ十年もたっていない時代の地方都市で、周囲からどんな視線で見られていたか。男性が圧倒的優位にあった時代状況のなかで、検察官・裁判官として「国家」の安定秩序を第一義とする立場の男性たちが、そういう女性をどんな目で評価していただろうか。男の庇護のもとで言いなりになる可愛い女ではなく、したたかで、気性のしっかりした、嫌な女……そういう女性差別意識の根強い構造から発する偏見が、この冤罪の背景にはある。冨士茂子という女性はそういう時代の意識が生んだ女の受難を小さな体に引き受け、しかし痛めつけられても踏まれても、ついに屈することなく抵抗しつづけたという点で、この事件は戦後の女の歴史をも浮かび上がらせている。そして名もなく、政党や労働組合や大企業など、大きな組織のバックアップのないただの市民が、この闘う女を軸に力を結集し、ついに国家権力にその非を認めさせたという事実は、戦後の民主主義が生んだ貴重な価値であり、大きな遺産だったと言っていいと私は思う。●●●  【主要目次】▲▲第1章・女囚の叫びが聞こえる=朝の惨劇(署名を拒む女/人間の環/夫殺しの汚名/記録と格闘する)/少年たちの証言(闇の中/悲劇への転向/いとおしき手よ/ふくれ上がる疑念)/真実一路(呉服屋さんの闘い/自称真犯人を告発/牙城ゆらぐ/検察の巻き返し/立ちはだかる権力)/翻弄される人たち(農薬を持って/つっかい棒/タコをつる/軍歌を歌って/背後霊を背負う人びと)  ▲▲第2章・浮かび上がる真実=空想劇のシナリオ(2000枚の資料/弁護士たちの戦略/村上報告書/さかさま捜査)/お母ちゃんはやってない(駅弁を買いなさい/老農婦の願い/娘から母へ/裁判官の心を打つ)/真犯人はだれだ(親分さんの話/Aのアリバイ/過去と手を切って/言われんじょの夫婦)  ▲▲第3章・われの言葉は火と狂い=厚き壁を打ちつづけて/粉雪が舞った日(刺身庖丁のウソ/四週間後の告白/格闘は目撃できたか/匕首入手のナゾ/哀れなラクダ)/内縁の妻と女たちの闘い(女囚の道/火と狂う/2度の離婚/自立する女へ/屈辱的な女性像/愛の関係/異端の女/実の娘の傷/母と子の空白/虚無の匂い)

内容説明

身をよじるような激しい嗚咽…。そのときから冨士茂子という女の存在は重く、私にのしかかってきた。『妻たちの思秋期』の著書が克明に追ったある殺人事件。女性・人権・愛と死。

目次

女囚の叫びが聞こえる(朝の惨劇;少年たちの証言;真実一路;翻弄される人たち)
浮かび上がる真実(空想劇のシナリオ;お母ちゃんはやってない;真犯人はだれだ)
われの言葉は火と狂い(厚き壁を打ちつづけて;粉雪が舞った日;内縁の妻と女たちの闘い)