不老不死と薬―薬を求めた人間の歴史

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  • サイズ B6判/ページ数 349p/高さ 20X14cm
  • 商品コード 9784806723196
  • NDC分類 499.1
  • Cコード C0020

出版社内容情報

始皇帝の命により不老不死の薬を求めて日本へ渡った徐福。
理想の国を日本に求めた鑑真和上。
古代中国の錬丹術、西洋の錬金術、近代化学から現代医療と薬の悩みまで、不老不死の薬を求めて止まない人間の歴史をたどる。

【書評再録】
●読売新聞評(1992年5月11日)=仙人願望にまでさかのぼる古代中国の薬の歴史、正倉院の薬物調査から掘り起こす古代日本の薬の物語、すぐれた医術をもつエジプトを起点とする西洋の文化と薬の歴史など、薬を求めた人間の歴史を見る。

【内容紹介】本書「まえがき」より
 多くの錬金術の書は西洋の話が中心であるが、この書は東洋の“錬丹術”から話が進められている。したがって、不老不死を求めた中国のクスリの話がわかりやすく解説されている。クスリに対する人類の願いは、不思議な話とともに数限りないが、歴史の表には出てこない。しかし、クスリを求める人間の心が多くの科学文明を生んでいることに驚かされる。それには古代から中世において、東洋でも西洋でも錬金術思想の基であるヘルメス哲学が底に流れているのである。
 もともと錬金術al-chemyはアラビア語のel-kimyaから由来しているが、金だけをつくる学問ではない。それは占星術とともに中世におけるあらゆる学問、芸術、工芸を始めとして宗教、道徳、政治の根源となる思想体系である。その表現として、卑金属を金に変える術となり、不老不死のクスリを求める術となっている。また、宗教の腐敗、疫病の流行、多くの戦乱による困窮した人びとは、古代から理想の国としてユートピアを求めたのである。西洋では古代ギリシアのプラトンによるイデア論による理想国家に始まるユートピアであり、東洋では老子の神仙論による桃源郷の蓬莱(宝来)神仙の国である。そこには金銀財宝があり、不老不死のクスリによって何時までも年をとらない若い男女の国である。時には、美しい女性ばかりの女護島でもある。現在では卑金属を金に変えることも、不老不死のクスリが存在するとも信じている人はいない、しかし、その理想を求めたのが人類の歴史ではないであろうか?
 人類文明史上、古代中国の科学技術によって多くの貴重な発見をしている。中国の四大発明は“紙の発見・火薬の発見・羅針盤・印刷の始まり”であるが、そのほか、ウルシ・カイコ・陶磁器など枚挙に限りがない。これらの技術は、古代道教の錬丹術が基礎となっていると思われる。
 クスリを欲する人間の願いは、その時代の思想的背景によって異なっている。かつて、古代中国を統一した秦の始皇帝は権力と富をほしいままにしたが、ただひとつの不安は年とともに衰える体力とやがて訪れる死にあった。彼は、古代道教の方士であった徐福に命じて不老不死のクスリを求めさせた。徐福は童男童女と多くの技術集団を加えて3000人の船団をつくり、東海の国に出発した。それは金銀珠玉と五穀器材を積んだ文化集団であった。クスリを求める心が、わが国の弥生時代への橋渡しとなったロマンである。このように人間の歴史をみなおすと、クスリに対する願いは意外にも重要な歴史の裏面史でもある。
 徐福は不老不死の薬のみではなく、理想の国を求めたか、建設しようとしたに違いない。そのような理想を求めたのは、奈良時代に渡来した鑑真和上であり、黄金の国または理想の国であるジパングを求めて渡航したコロンブスも同じ心であったろう。
 西洋の錬金術は近代化学に変身して、多くの貴重な化学薬品と医薬品を発見した。これらの薬品の発見には多くのエピソードがあるが、現代人の生活様式を変えるとともに、人間の生命を大きく延長したのである。
 合理的な近代科学による多くのクスリの発見は、やがて癌に対する特効薬も発見されて、人類を無限に幸福に導いてくれるように思われる。しかし、クスリの不思議な作用は、現代でもすべてが解明されているわけではない。昔からクスリは同時に“毒物”でもある。毒という言葉は、古代から魔術や妖術として関係して歴史の裏面に登場している。“クスリと人間”の関係は、また“毒と人間”の関係でもある。
 近代文明は今世紀半ばから、大衆には理解されない巨大な宇宙科学時代に突入した。同時に、医薬品の産業は強力な作用をもつ多品種のクスリを大量に生産することを可能にした。このことは、また人類がかつて予測すらしなかった毒物の大量生産を意味している。21世紀には、古代や中世の毒物以上に、クスリの不思議な作用が人類を危険にさらしている。“クスリか毒か”は人類の選択に依存している。
 神から与えられた貴重なクスリは、人類の未来の幸福を約束しているのではない。現代こそ、貴重なクスリの適用には謙虚な真の医療が求められている。これを誤ると、クスリは人類を滅亡させる毒物でもある。これに対する神の警告も本書で解説した。
 おわりに、人類の滅亡を救う課題のひとつは“クスリに対する真の理解”を求めることである。少なくとも、わが国においては医薬分業が早く確立されることが必要であることを、読者が理解していただければ幸いである。

【主要目次】
▲▲第1章・はじめに
   1.徐福渡来伝説
   2.文明のはじまり
▲▲第2章・古代中国の文明と薬の歴史
   1.中国古代道教と錬丹術
   2.古代中国の医学と錬丹術
   3.中国薬物書のまとめ
▲▲第3章・古代日本の歴史と薬
   1.わが国の神仙思想と道教
   2.中国との交流
   3.奈良の大仏開眼
   4.古代日本の薬の物語
   5.古代日本の医学書
▲▲第4章・古代西洋の薬の歴史
   1.錬金術とは
   2.エジプトの文化と医学
   3.ギリシアの文明(ギリシアの哲学と錬金術/ギリシアからローマの医術)
   4.イスラム文明と錬金術(イスラム文明のおこり/イスラムの科学と思想/アラビアの薬学と科学)
   5.まとめとエメラルド板
▲▲第5章・中世の文明と錬金術思想
   1.サレルノの医学校の時代(11世紀から12世紀)
   2.中世の大学の設立(11世紀から15世紀)
   3.ルネサンス時代(16世紀)
   4.錬金術思想の開花と落花(17世紀)
   5.化学のおこり(17世紀後期より)
   6.中世の毒物物語
▲▲第6章・近代化学と薬物の発見
   1.大航海時代と博物学(15世紀から18世紀)
   2.有機化学の誕生
   3.薬となった有毒植物の物語
   4.南米からの貴重な植物(インカとコカ葉の物語/マラリアを征服したアンデスの樹/クラーレ矢毒と薬理学の基礎原理)
▲▲第7章・人間を長寿にした薬の物語
   1.天の恩恵のささやきを聞いた人びと
   2.日本人を苦しめた結核と回虫
   3.薬理学の進歩と新薬の開発(神経機能に対する薬の作用/アトロピンからみちびかれた薬/交感神経に作用する薬物/植物から大量生産されるホルモン)
▲▲第8章・現代医療と薬の悩み
   1.いのちと薬
   2.国際化時代におびえる医薬品産業
   3.進まぬ医薬分業
   4.薬の進歩と薬害の発生
   5.医者に捨てられた患者の悩み
▲▲第9章・薬は未来になにを警告しているか!

内容説明

始皇帝の命により不老不死の薬を求め日本へ渡った徐福。理想の国を日本に求めた鑑真和上。西洋の錬金術が近代科学の基礎になったように不老不死の薬と金を求める人間の心こそ科学文明の源であった。

目次

第1章 はじめに
第2章 古代中国の文明と薬の歴史
第3章 古代日本の歴史と薬
第4章 古代西洋の薬の歴史
第5章 中世の文明と錬金術思想
第6章 近代化学と薬物の発見
第7章 人間を長寿にした薬の物語
第8章 現代医療と薬の悩み
第9章 薬は未来になにを警告しているか!