内容説明
ソ連軍のアフガニスタン侵攻から7年目の1986年、ひとりの女性作家がパキスタンの国境の町を訪ね、アフガニスタンの人々のなまなましい声を聴き取った。乏しい武器で闘うレジスタンスの兵士たち。イスラムの掟にしばられ、全身をすっぽり布で覆った女性たち。住み慣れた土地を逃れ、何年もキャンプ暮らしをする難民たち。「だれもが隊長で、だれも家来にはなれない」―多種多様な民族があつまった、独立自尊の民。超大国の圧倒的武力を相手にしたとき、この国に何が起きたのか。人類をとらえつづける戦争という病を考えるための、重要な報告がここにある。
目次
1 カッサンドラーは髪をふりほどいた
2 われらの叫びは風に流される
3 レジスタンス戦士タジワル・カカール夫人は語る
4 西側の意識の不思議
著者等紹介
レッシング,ドリス[レッシング,ドリス][Lessing,Doris]
1919年、父親の任地イランに生まれる。五歳のときに家族とともに南ローデシア(現ジンバブエ)に移住、1949年にロンドンに渡るまでその地で過ごす。50年に処女作『草は歌っている』を発表して以来、『暴力の子供たち』、『黄金のノート』(英雄社)などの話題作を書き、現代イギリスを代表する作家としての地位を固める
加地永都子[カジエツコ]
1940年東京生まれ。東京女子大学文理学部卒業。アジア太平洋資料センター理事、季刊『世界から』編集者
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
344
著者のドリス・レッシングはノーベル文学賞受賞者(日本での知名度はあまり高いとは言えないが)で、文学活動と並行して長年アフガニスタンの支援に携わってきた。邦訳ではなんだか牧歌的なタイトルだが(原題は"The Wind Blows Away Our World"と全く違う。私は邦訳タイトルには賛成できない)、1980年代の(本書が書かれたのは1986年)ソ連によるアフガン侵攻に対抗すべく立ち上がったムジャヒディン、そしてすべてを失った難民の人たちへのインタビューを通して、アフガニスタンの現状を伝える。 2019/04/09
秋 眉雄
14
レッシングをこの本に向かわせた動機は怒りだろう。或いは憤りか。ソ連・アメリカ・イギリスといった大国そのものに対する怒り。報道の仕方や無関心に対する憤り。もどかしい自分にさえ向かう怒り。しかし、そういったものに満ちてはいるが、それは決して喚き立てるようなものではなく、とても静かであり、とても強いものでした。筋金のはいった68歳の著作です。2017/02/21
ひつまぶし
3
誰もその正しい予言を信じない呪いをかけられたカッサンドラーの悲劇に寄せた小論から始まる。アフガニスタンの状況を伝えるルポルタージュというより、ほとんど紀行文のようで、どうとらえていいかわからない。おそらくは、そうした「とらえがたさ」をそのまま表現しているのだろう。同じ訴えを繰り返すムジャヒディンの戦士たち。しかし、その背後に男性のいるところでは語れない女性たちがいる。語られること、見せられることのそばにあって無視されているものを、レッシングはさまざまな事例から強調して、読者が容易に納得することを許さない。2021/08/21
うさぎさん
2
イギリス人女性3人組による取材よりソ連の南下政策下におけるアフガニスタンの様子を詳述する。 女性の地位、西欧と異なる統治体制、ムジャヒディンの高潔さが肉声を通して伝えられる。2021/09/17
土星人
2
文章のリズムに慣れるまで時間がかかったし、内容もよく分かったとは言い難いが、考えさせられる主張も多かった。四章「西側の意識の不思議」は最も短い章だが、悲惨な戦争を「悲惨」だとか「ヒトラーのような」とか犠牲者数で表現すると、それ以上の理解や想像に進まない、という警告は本当に鋭いと思う。『「数百万人」といった数を、平気で気軽に使えるところに、残忍な行為、残酷さの理由のひとつがあるなどということがありうるだろうか。』この章は特に多くの人の目に触れてほしいと思う。2019/10/01